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ritardando
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     キョン「ここが私立光坂高等学校か…」[01]  2008-12-11(Thu)  
http://jfk.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1228747891/l50



キョン「ここが私立光坂高等学校か…」



1 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/08(月)
23:51:31.64 ID:+MzZ4QFh0
渚「この学校は、好きですか?」



キョン「…俺に聞いておられるのですか?」



渚「……」




キョン(転校初日の人間に聞かれても困るものだが)



26 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
01:18:22.97 ID:nL41DFug0
転入初日から遅刻とはな。

それにしても、なぜ校舎というものは示し合せたように高い位置へと在りたがるんだろうか。


いや、校舎に疑問を投げかけるよりも建設に携わった人間に直訴するべきだとか、


そもそも今さら不平を述べたところで状況は改善されないとかそんな話は俺も十二分に承知している。


とにかく、俺が主張したいのは毎朝せっせと歩かされる身にもなって欲しいというものであり……



「この学校は、好きですか?」




下らない思惟に耽っていた俺は、なんの前触れもなく聴こえたその声によって振り向かされた。


上り坂の途中、時間が時間というだけに俺の他には誰もいない。


呟いたのは、とっくに過ぎ去った人波から一人だけ取り残されるように佇んでいた女生徒のようだ。


これはつまり、俺に話しかけてきたということを示しており、

延いては俺が何らかの回答をせねばならんということなのか。



27 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
01:30:24.81 ID:nL41DFug0
意を汲み難い質問に相対した俺は、

やがて下手な波風を立てるべきでないという解答に達した。



「いや別に、取り分けては」




無難にいこう。

というより、むしろ俺がこの街に来たのはほんの数日前なので、これ以外の答えようがないのだ。




「わたしは好きです」



おいおい、自己完結かよ。



「そうかい、そりゃ良かった」




さてと、用が済んだところで俺は先を急がせて貰うぜ。

走ればまだ、ホームルームの尻には間に合いそうだしな。


「慣れない道に迷いました」というベタな言い訳にも有効時間というものがあるものさ。

悪く思わないでくれ。


再び長い坂を上るべく高みの校門を見据えた俺だったが、

やはり引っ掛かるものを感じ、女生徒のほうを振り返ってしまった。




「あんまりもたもたしていると不味いんじゃないのか?」

「えっ……?」

「ほら、いこうぜ」




手を引いてのエスコート、なんてことは流石に俺もしなかったが、


腕時計を見せつつ声を掛けたことが功を奏したのか、彼女は再び歩き出したようだった。



俺の背後数メートルの位置を、付かず離れずに。


小刻みな足音を響かせながら。



29 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
02:05:28.05 ID:nL41DFug0


こうして俺達は登り始めちまったらしい。



長い、長い坂道ってやつをだ。





32 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
02:10:51.35 ID:nL41DFug0
物事には往々にして転機ってものがあるように見受けられる。

季節の移り目だとか、年の初めだとか、長期休暇の入りだとかそういった時節的なものから、


理由もなく精神的に晴れ渡ったその瞬間が、その時だって場合もあるのかもしれない。



ともかく、現在は桜乱れるこの季節。


入学シーズンという転機の定番でもあるのだが、そんなことなど俺には一切関係なく、

御覧の通りの転校が、俺にとっての転機だったということらしい。


不況の煽りだかサブプライムだかは知らんが、

親父が急な転勤で外国へと飛んでいき、ついでに母親まで後を追って行った為、


俺は遠く離れた親戚を頼りにこの街へと越してきたわけだ。

だからって私立へ転入させるのもどうかというものではあるが、


ここらの近場にはもとの学校と肩を並べられる程度の進学校がなかったということと、

俺がもう三年である為にあと一年程度しか高校へと通わないこと、


さらには当の居候先でもあり俺達がお世話になっている方からの有難い援助が背中を押した形となった。

正に至れり尽くせりというものだ。




何れにせよ、両親が自宅を売り払うなどという暴挙に出てしまった後だったので、


住む場所を変えるという選択は避けられなかったというのが実情である。

それに俺には妹もいる。


俺と二人もとの街でアパートなぞを借りて不安定に荒みそうな生活を送るより、


この街での親戚を仮初の親代わりと認め、学費は奨学金とアルバイトで凌ぐ方が断然マシとの判断だ。

これでも俺は、妹思いで名が通っていたからな。


まあ半分以上は嘘だが。



などなどと、面倒な事情を長々据え終わったところで、


俺は今日から世話になる見慣れない教室の扉を開け放つこととなったわけだ。



34 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
02:21:19.07 ID:nL41DFug0
「すみません、見慣れない道に迷ったものでして」



配属がD組になることは予め知らされていたので、


俺は遠慮がちに扉を開けると、如何にも地味で無難な切り出しを以って許しを請うた。

迷ったというのも事実ではあるが、遅刻の決定打となったのは、


信号を渡り切れずに迷っていた婆さんに手を貸そうとしたら逆に絡まれた、

などという俄かには信じ難い話の所為だ。


婆さんはどうやら落とした硬貨を探していたらしく、

俺が手を貸そうとしたことで「盗まれる」とでも思ったのか、


結果的には親切心が裏目に出た形となり、無駄な時間を食わせられたわけだ。



「じゃあ君の席は、窓際の奥から二番目ね」




俺が回想している間に自己紹介も滞りなく済み、

なんの因果か、もとの学校と同じ窓際の席という定位置に案内されたのだ。






35 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
02:30:27.06 ID:nL41DFug0
まず疑問なのは、背後の席と隣の席が空席だということ。

机が余っているだけかと思いきや教科書類は突っ込まれたまま。


これは何を現しているのかと思案し始めたところで、



「あの、はじめまして」



という助け船が寄越された。


ショートカットの髪にリボンを結いつけた、いかにも控え目な様相。



「どうも、よろしく」




俺も初日で調子が掴めないので、相手に合わせて返したところ、

幾許か安心したように自己紹介を施された。




「わたし、藤林椋といいます。

 一応はD組の委員長です……その、よろしくお願いします」




言うなり必要十分以上に礼儀正しく頭を下げられた。

感動したね。


何故かはわからないが、この素朴さに俺は心底からの感嘆を覚えたのさ。



38 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
02:41:46.95 ID:nL41DFug0
朝のホームルームも終わり、一校時目まで僅かに時間が空いたというのに、

俺に対して好奇の目を向けてくる奴は今のところこの委員長くらいだ。


転校生ともなればもっと優待されるようなイメージがあったものだが、

ここの校風なのか或いは三年というグループ観念が凝り固まった時期の影響か、


別状、思っていたほどの騒乱も巻き起こらないらしい。

期待していた訳ではないが、些か寂しさを感じてしまうのも事実だ。


まあいいさ、じきに溶け込めればな。



「ところで、俺の後ろとその隣の席のことを訊ねてもいいか?」

「えっ……」




なんだその困ったような顔は。

開かずの扉ならぬ呪いの席というものでもあるまいに。




「いえその、少しばかり癖のある方たちでして……えっとぉ……」



昼までにはわかるとおもいます。


という謎の言葉を残し、藤林は足早に自席へと戻っていった。



39 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
02:53:13.53 ID:nL41DFug0
一時間目。

転校を控えていた俺にとって、一番の不安が何だったかというなれば、

間違いなく学業についてである。


即ち、前の学校とこの学校で致命的なほどに学力差があるとすれば、


三年という時期も相俟って、飲み下せないほどの辛酸を舐めさせられる恐れがあったからだ。

だがそれも杞憂に終わったらしい。


なんてことはない、普通の進学校だ。

むしろ俺のもといた所より若干ではあるが手を抜けるのでは、というほどの具合。




これでもそれなりに学業には励んでいたしな。

ここらの人口が少なさが学業分野にまで関係しているのかは定かではないが、


割りと住み良い環境であることは何となしにわかった。



ならば、あとは普通に過ごしていければそれでいい。



41 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
03:03:36.09 ID:nL41DFug0
適当に授業をこなし、空いた時間でクラスメイト達に挨拶回りを行い、

それなりの手応えを感じた始めた三時間目の終了直後。


教室内の空気が一変、しんと静まりかえった。



「おいおい……」



思わず俺も零しちまったね。

ここは進学校だろう?


なのになんだあれは、乱暴に教室扉を開け放ったのが、

だらしなく制服を着こなした金髪野郎と、


見てくれは良いが何処か目付きの悪い男子生徒二人組の御登場だ。



なぜこんな時間に?

なぜ金髪?

なぜ威圧感を携えている?




そのような様々な疑問が浮かんだものだが、

教室中の忌むような視線に怯むことなくその二人は俺の方へ――


つまりは”あの空席”へと腰を据え、頬杖をつくなり無言の重圧を振りまき始めたのだ。



どうするべきか。

いや、答えは決まっている。


こちとら転校生。



挨拶回りは平等に、だろ?



45 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
03:16:55.99 ID:nL41DFug0
「おはよう、転入してきた――」

「見ない顔だねぇ、君?」




氏名を述べようとした金髪が俺の言を遮り、ニヤリと不敵な笑みを湛えていた。


目付きの悪い方は俺の後ろの席で依然、頬杖をついたまま興味なさげだ。

やれやれ、出鼻を挫かれちまったが郷に入りては郷に従え、


ここは相手のペースに合わせるか。



「名前は……へぇ、なるほどねぇ」



金髪は馴れ馴れしくも俺の机に掛けてあった鞄を探ると、




「キョン、か。変な名前だな」



ああ、我が妹の呪縛がこんな所まで続くとはな。

新たな学校へと通うと聞き付けるや否や、


俺の身の回りの物に仇名を書きなぐってはいたが……

あの時、叱ってでも止めさせるべきだったか。

いいや気を取り直そう、




「これから、よろしくな」



48 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
03:28:53.62 ID:nL41DFug0
「ま、よろしく」

金髪に続き、

「ああ」

溜息にも似た裏席の男の頷き……で、いいんだよな?




「僕は春原。春原陽平。

 スノハラは、春の原っぱと書くという事をくれぐれも憶えておくように」




金髪が要らぬ注釈を交えて述べると、

「岡崎朋也」

目付きの悪い男もぶっきらぼうに告げ……



沈黙が訪れた。




さて、俺はどうすればいいんだ?

ハイさようならとしようにも、俺の席とこいつらの席は隣同士。


下手に拗れちまえばこれからのことに響きそうである。

かといってこの雰囲気。

言ってしまえば非常にやりにくいのだ。




仕方なく、俺が最近見たお笑い番組でも肴にするかと口を開きかけた時、

再び助け船の再来となったのだ。



49 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
03:42:23.96 ID:nL41DFug0
委員長の藤林だ。



「あの、岡崎くん。新学期早々、遅刻はよくないと思います」



その態度は相変わらず遠慮勝ちであるが、


他の生徒達が一様に距離を取るなかにおいては果敢にも見える。



「……」



対しての岡崎は沈黙。


おいおい、女性相手にそりゃないだろう。

このままいくと藤林が泣きだしてしまうのでは、という俺の懸念とは裏腹に、




「配布物のプリントです」



朝の時点で配られていた紙切れを差し出すと、

岡崎も観念したように受け取っていた。


健気だね、まったく。

もしかするとこの二人の間には、

新参者の俺に理解不能な何らかの繋がりがあるのかもしれない。




そう思い立ち、ここ暫くは様子を見る方向で過ごそうと俺は心に決め、

その後の学校生活も特に問題なく消化していった。



51 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
03:53:10.21 ID:nL41DFug0
その日の放課直後。

俺を呼びつけていた先生を訪ねるべく、俺は生徒指導室を訪れた。



「失礼します」




生徒指導という名称だけで、なんとも緊張するものだが、

狭い室内に居たのはたった一人の老教師だけのようだった。


彼は俺の姿に気が付くなり柔和な笑みを浮かべ、曲がった腰を叩きながら出迎えてくれたので、


転入初日も重なって張りつめていた俺の緊張は何処へともなく散っていった。



「どうだったかの?」

「どうだった、と言われましても」




正体不明の微笑みで問われても、どう答えようもない。

しかしこの老教師、幸村先生は、俺が転入する際に色々と手を回して頂いたのだ。


俺が厄介になっている親戚の家の知り合いだとも聞かされた。

ぞんざいに扱う気など毛頭ないが、下手な受け答えて気を悪くされても困りものである。




「面白い二人だとは思わんかね?」



面白い……はいいとして、二人?



52 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
04:08:07.89 ID:nL41DFug0
思い当たる節などない。

なんて叫べるほどに鈍感な奴は、この世の中にはいないだろう。

俺は思い当たった名前を挙げる。




「岡崎と春原ですか?」

「曙と朝青龍?」



どこの関取だ。




「すまんすまん、どうも耳が遠くて。岡崎と春原だった」

「まさか幸村先生が仕組んだと?」

「うむ、捻じ込んだ」




捻じ込んだ?



「何故に」

「面白そうだったから」



なんとも他人事ですこと。


出来ることならばもう少しばかりでいいので、

溶け込みやすそうな連中の所へ捻じ込んで欲しかったものなのですが。




「そう嫌な顔をするもんじゃあない」

ホッホッホ、とどこぞの黄門さまよろしく優雅に笑い終えてから先生は付け足した。




「言いたいことはそれだけだったからの。君も上手くやっていけてるようで、何よりというもの。


 困ったことがあれば何でも相談してくれるといい」



果たして頼りになるのかならないのか。


要するに、俺には理解し難い人だということだけは悟った。




55 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
04:22:04.07 ID:nL41DFug0
下校路。

共に歩く友人など、当然ながらまだいない。

ともなれば自然に風景へと目が移りゆくものらしい。


普段はそこかしこ勝手気ままに生えている街路樹も、

見慣れない街で見るそれは、いつもとは少し違った一面を覗かせてくれている。




なんてガラじゃないだろ、俺。

なんだかいやに落ち着かない。


この街へ越すに至って身辺の整理と共に心の切り替えも済ませたはずなのに、

やはり何処かで引っ掛かってしまう。



「はぁ」




溜息と共に、二つ折りの携帯電話を取り出してみる。

だが光は灯らない。

電源どころか電池パックを抜き出しているから当たり前だ。




今すぐ叩き割ってやろうか?



思い立って両手で握ってみる。

力を込めればいとも簡単に真っ二つと出来る自信はある。




やるか?



…………。

いや、後にしよう。

今は家に帰らねば。


一刻も早く、アルバイトを探さなければならないからな。


57 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
04:37:50.12 ID:nL41DFug0
「キョンくんおかえり」



敷居を跨ぐなり明るい声を掛けてきたのは、

つい先日から晴れて中等部へと足を踏み入れたばかりの我が妹だ。


中学生にもなり制服を着込むようになると、それなり大人びて見えるものらしい。



「ただいま、学校はどうだったか?」




そう訊ね終えたあとに、

俺自身が幸村のジイさんと同じ質問を妹へ投げかけたことを自覚し、苦笑してしまった。


しかし妹は俺の表情を意にも留めずに首を捻り、



「ふつー」



なんともいえない微小を浮かべた。


どうやら上手くはやっているらしいな。

そもそも中学校へ上がるという、切りにいい節目の転校ならばそう弊害も出ないものだろう。




「そうか、それは何よりだ」

「キョンくんは?」



俺か。



「ふつーだ。至って平凡なもんだぞ」




例の二人組など、大いに許容範囲内ってものだからな。




59 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
05:01:56.49 ID:nL41DFug0
その後、夕食の席で俺はアルバイトを探す旨を申し出たのだが、

「学生は学業が本業でしょう? 金銭のことは気にしないでいいから」


という一辺倒の押しによって譲歩せざるを得なくなり、さらに粘ってみたものの、

「どうしてもというのなら、今の学校に慣れてからにしなさい」


という折衷案に落ち着く形となった。



正直、なぜこの母役を買って出てくれた人がこうにも良くしてくれるのか、その真意は定かではない。


俺の母は遠い親戚と言っていたものの、当の俺は一度も顔を合わせた覚えがないし、

歳不相応に若く見えるのが余計にその不可解さに拍車を掛けている。


既婚者ではあるあらしいが、単身赴任とのことで夫も姿を見せてはいない。

そう、この人は割かし広い家に猫一匹と共に暮らしているのだ。




かのような様々な要因から来る一種の不信感、とでもいうのだろうか。


自分でも恩を仇で返すような考えだとは思うが、今までの経験からどうにも勘繰ってしまい、


それ故に「おばさん」などと軽々しく呼べないのが俺の現状である。

妹は馴染んでいるようだけどな。




「寂しいものなのよ、一人は。久し振りに賑やかになって、わたしも嬉しいわ」



などと屈託なく笑う顔を信用していいのか悪いのか。


若しくは、俺が統合失調症などを患っているかもしれない可能性を疑うべきなのか。



なんにせよ、今は保留だ。

なにもかもな。




60 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
05:15:46.48 ID:nL41DFug0
翌日。

前日の二の轍を踏まぬようにと心がけていた俺は、

晴れてホームルームに余裕をもっての登校を果たしていた。


もちろん自慢できることなどではなく、至極当然のことではある。



同じく当然の如く、といえど二日目ではあるが、


各所からの噂どおり岡崎と春原は未だ不在とのことらしい。

クラスメイトも委員長の藤林を除けば、取るに足らないといった面持ちのようだ。


変わったクラスだな、と今更ながらに思えど、

それがここの仕来りなのだとすれば、俺もそれに倣うべきなのだろうか。




などと俺は意味のない思案をはじめ、一時間目に片足を突っ込んだ頃に岡崎が姿を見せたのだ。




62 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
05:25:43.79 ID:nL41DFug0
「よっ」



小声を掛ける。



「よお」



一瞬、意外そうな顔を見せたようにも思えたが、岡崎は返してきた。


ぶっきらぼうだが反応はする奴らしい。

感触を得た俺は、教師の目を盗んで続けた。



「やけに早いじゃないか」

「まあな」


「藤林の叱責も無意味じゃあないらしい」

「そういう訳ではないけどな」



妙に歯切れが悪い。

そう感じ取れたので訊ねた。




「なにかあったのか?」

「いや、別に何かというほどでもない」

「そう勿体ぶられると、こっちとしても余計気に掛かってしまうものだ」


「面倒な奴だな……」



うんざりを隠そうともせず露にし、岡崎は続けた。



「校門のとこで変な奴と会ったんだよ」




65 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
05:38:28.76 ID:nL41DFug0
この学校に措いての変な奴は、お前と春原だ、

なんて皮肉ればせっかく拡がり掛けた間口を閉じ兼ねない。


それに校門というフレーズには俺も思い辺りがある。



「この学校は、好きですか?」

「なんだそりゃ」




俺のモノマネに岡崎が吐き捨てる。

校門の奴も同じフレーズを繰り返すということはしなかったらしい。

ならばこうだ、




「坂の途中で止まっていたりはしなかったか?」

「してたな」

「で、気弱そうで敬語で、小走りで……」


「ああ、それからあんパンが好きらしい」



あんパン?

そいつは初耳だ。




「まあとにかく、そういうこった。俺は寝るからお前は勝手に授業にでも励んでくれ」



言うなり突っ伏した岡崎が、さらに一言。




「そうだ、藤林は泣かすなよ。面倒なことになるからな」



これまた意味深な何かを伝えてくれやがった。


俺がそういうことをする人間に思えるのかってんだ。

にしても、後ろで堂々と寝息を立てられると真面目にやっている俺としてはやり辛いんだがな。




67 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
05:55:42.86 ID:nL41DFug0
「そんじゃな、春原が来たらよろしく伝えておいてくれ」



一校時目終了のチャイムが鳴るや否や、


岡崎が後ろ手に振って教室から出ていった。



「あっ……プリント……」



という呟きで立ち尽くしたのは、


入れ替わるように席へとやってきた藤林だ。



「残念ながら、遅かったようだな」

「そうみたい、ですね」


「ここへ来たばかりの俺が言うのも変な気がするが、

 どうして藤林はそこまで岡崎に入れ込むんだ?

 だってそうだろ、」




他の奴等はこうにもクールなのに。という言葉は辛うじて呑み込んだ。

出過ぎた真似は不味いだろう、俺。かつての先例に学べ。


藤林は俺の言葉をどう解釈したのか、遠慮がちな態度をさらに縮めてから言った。




「岡崎くん……春原くんもですけど、二年生の時から出席が悪くて進級ギリギリだったようですし、


 だからその、三年生となってまだ始めのうちに何とかできないかなと思いまして……」

「へぇー」

「あの、委員長としてですよ?」




そう念を押さなくとも、しっかりと伝わっているんだが。

69 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
06:10:28.97 ID:nL41DFug0
「仕事熱心だな」

「そうでもないです、不器用ですから」



照れたように笑う藤林の仕草は、


先ほどの岡崎と相対している時とは全く異種のものだ。

緊張成分が抜けているというかなんというか。


まあ、俺が察したところここは行儀のいい校風ではあるし、

金髪、延いては不良とレッテルを張られているという噂も流れている始末の二人と、


会話を交わせる人間がいるだけで奇蹟的なのかもな。



という主旨を、柔らかい言葉へと変えて伝えた。




「でも、キョンくんだって早くも二人と打ち解けてますよね?」



俺の呼び名は初日の春原の所業で触れまわされたから最早よしとしよう。


だが、打ち解ける?

二言三言に毛の生えた会話しかしていない、この俺が?




「いえ、その、なんというか、岡崎くんも春原くんも排他的というか、

 近寄りがたい雰囲気を持ってらっしゃいますので……」




言いたいことはなんとなく伝わってくるが。



「二人とも悪い人ではないので、よろしくお願いします」




委員長に言われては仕方がない。

特別なことをする気など毛頭ないが、顎をしゃくる程度の善処はしてみるさ。



73 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
06:20:24.84 ID:nL41DFug0
二校時目の古文。

ともなればあの老教師、幸村のジイさんの出番である。


が、その授業内容を単に形用するならば、のらりくらりといったそのものだ。


なんたって教科書を読み上げる際、傷の入ったCDのように何度も復唱しているからな。

恐らく行を読み違えているのだとは思うが……


持ち芸なのだろうか、それとも御歳を召したがための真性なる過失なのだろうか。



そういえば春原もまだ姿を見せていない。


岡崎も帰っては来ない。大方、ふけているのだろう。

前の学校ではそんな人種が居なかったので、些か興味深く感じてしまう。


と、好奇心を抱いてしまうのは俺の悪癖だったな。



戒心せねばなるまい。



74 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
06:33:48.66 ID:nL41DFug0
授業終了でお開きかと思いきや、

ジイさんが俺の元へとのんび~りやってきていた。



「どうかね?」




どうと問われてもな。



「まあ、ぼちぼちですよ」

「そうかいそうかい」



なんだ一体?




「特に用は無い。怪訝な顔をせんでもよかろうて」



教師に歩み寄られたことで教室内の視線を集めてしまっているのが心地悪い。


と感じ始めたところで、岡崎が帰ってきたようだ。

それを目に留めた幸村ジイさんが鋭い眼光を――なわけないか、俺の気の所為だろ。


ともかく諭すように訊ねていた。



「サボりかな?」

「あ、いや、実は腹の調子が悪かったから一時間中トイレへ……な?」




……え、まさか俺に振っているのか?

というより一時間中トイレって無理があるだろう?


ま、まあ、確かにそうですね。岡崎の奴、朝から顔色悪かったみたいですし。




「ふむ、そうかそうか、食中毒には気を付けんとな。健康第一とは言ったものだからのう」

「ああ、昨夜のあんパンがどうにも悪かったらしくてな」




やがてジイさんは何やら嬉しそうに笑いつつ、幕引きとばかりに教室から去っていった。



76 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
06:47:06.59 ID:nL41DFug0
「ナイスアシスト」



僅かに口元を歪ませる程度の笑み。

思えば、岡崎の感情を初めて目にしたような気がする。


しかし腑に落ちない。



「あれでよかったのか? 誰がどう考えても不自然だろ?」

「いいんだよ、あれで」




のっしと椅子と壁により掛かり、お決まりの頬杖。

そういう自堕落なポージングが変に様になるな、こいつは。

ところで、




「どうして急に戻ってきたんだ?」

「一応だけどな、数学は受けておかなくちゃ不味いということを経験上知っている。


 あいつは厳しいからな、去年は補講とやらで苦労させらたものだ。お前も気を付けておけ」



「微塵すらもありがたくはない豆知識だな」


「悪かったな」



やがて突っ伏し、



「んじゃ、俺は寝るんでよろしく」



沈黙してしまった。


何がよろしくなのか説明くらいしろというものだ。

気の毒に、藤林の奴がタイミングを見計らえずに右往左往しているぜ。



78 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
06:57:29.11 ID:nL41DFug0
寝る、か。

わからんでもないさ。

俺も一年次の頃はそういった態度を取っていたからな。


ゴタゴタしていて純粋に疲れていたので、仕方がなかったってのが要因ではあるがな。

けれども二年も後半となるとそれなり真面目に取り組み始めたのだ。


高校へ入学した時点と比べて、成績が二次関数ばりに急降下してちゃあ、

流石の俺でさえ笑うもんも笑えなかったしな。




だけどな、そろそろ危ないんじゃないのか?

学期始めならばまだまだいくらでも取り返しの付けようがある。

ここらで心機一転……




「って、聞いているのか岡崎?」



うんともすんとも言わねぇ。


俺の小言に意も介さずとは、大層な筋金が血管のように張り巡っているのかもしれない。

委員長、すまないが俺には手にあまりそうだ。



83 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
07:11:29.44 ID:nL41DFug0
三校時目終了、と同時。



「じゃ、俺は出掛けてくる」

「今度は何処へだ?」


「本当に口煩い奴だな。旧校舎の方だよ、あっちは静かだからな」



そのポケットに手を突っ込んだ後ろ姿を俺は見送った、


後で、しまったなと気が付いた訳だ。



「プリント……」



そうだった。

プリント配布要員、藤林を忘れていた。


俺が声を掛ける暇もなく、藤林は崩れおちるように岡崎の席へと座り込むと、

打ちのめされたボクサーのように俯き、肩を震わせ始めた。




っておい、まさか泣いてなんかいないだろうな?



「わたし、やっぱり駄目なんでしょうか……」


「お、おい、急にどうしたんだ?」

「だって、去年のお姉ちゃんなら何事も上手くやっていたのに……」


「落ち着こうぜ、些細なことであまり思い詰めるなよ」



俺が安否を気遣うべく肩に触れようと手を伸ばした直後だ、


そう、「今、さらっとお姉ちゃんと言わなかったか?」という疑問に行き当たった瞬間。



俺の頬を掠めるように何かが飛び去って行き、


遅れて風圧を感じ、次いで怒号が響いてきたことに俺は戦慄を覚えた。



88 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
07:23:56.89 ID:nL41DFug0
「くぉーらぁ~! ともやー!!」



怒り肩とはこういう様相を指すのだな、という塩梅で、


爆発寸前のニトログリセリン並の気迫を以って女生徒がツカツカと歩み寄ってきた。

で、一言。



「じゃない!」




否定句らしい。

よほど意外だったのか、両手に携えていた漢和辞典と和英辞典を取り落としていた。

ところで誰なんだ、こいつは。




「誰よアンタ!?」

「こっちが訊きたい」



そんな俺の疑問を解消させたのは藤林だった。



「お姉ちゃん……」




なんだって?

この品性の欠片もなさそうな奴が、藤林の姉だって?



そうかいそうかい。



……冗談だろ?




91 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
07:35:30.37 ID:nL41DFug0
「あの、こちらキョンくん。転入してきたって話したよね?」



ピリピリと張り詰めた空気のなか、藤林が矢継ぎ早に紹介する。




「キョン~? 今時アイドル気取りかこのモミアゲがぁー!」

「ほっとけ」



さらに藤林が割って入る。


といっても姉妹なのだから両方藤林なのだろうが、

ここでは穏やかな方の藤林を藤林と定義しておく。

いかん、ごっちゃになりそうだ。


とにもかくにも藤林が、



「それで、こっちがわたしのお姉ちゃんの杏です」




丁寧なご対面、加えてご紹介預かりまして誠に感謝致します。

ところでこのキョウお譲のキョウは、凶行の凶なのでしょうか?


でしたらば、殺村凶子というニックネームなぞ――



「アンタ今さ、下らないことを考えていなかった?」

「いいえ全然、露ほどにも」


「じゃあ訊くけど、漢和辞典と和英辞典、どっちがお好み?」

「敢えて言うなれば、どちらも好みでない」

「そう……」




ちょっと待て、なぜ両手を振り上げているんだ?



99 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
07:54:50.63 ID:nL41DFug0
数分後。

一度は俺の眉間にめり込み掛けた辞典(凶器)も、

今ではすっかり元の鞘(カバー)へと収められたようで、




「ふーん。で、アンタは椋の味方ってわけ?」

春原の机に腰掛け、足を組むという大胆なのか単に素行が悪いのか、


要するには高圧的な態度で杏が問い掛けてきたのだ。



「そうだ、俺が悪者には見えないだろう?」

「どっからどう見ても悪人ヅラじゃん」


「知るか。少なくとも俺は今までの人生の中でそう言われたことは一度もない。

 人様を見かけで判断しないでくれ。


 むしろ初対面の人間に躊躇なく辞書を投げ放った、お前の人間性を疑うね」

「アンタの概評なんてゴミ以下よ。なんの価値もないから」




こいつ……。

いや抑えろ、こういうタイプは一番係ってはならない人間だ。

深入りするな、俺。



「とにかく、はい!」


「なんのつもりだ?」

「見て分かるでしょ? プリントよ、今すぐ朋也に渡してきて」

「なにゆえ?」


「アンタは椋の味方なんでしょ? それともさっきのは上辺だけの嘘?


 もしそうだとしたら、アンタは男としてのプライドを捨てるとともに、椋を泣かせた罪で――」



――命も捨てることになるわ。




どうやら岡崎の「藤林を泣かすな」は、本物の忠言だったらしい。

今さら思い返したところで、それこそ後の祭りだがな。



102 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
08:09:22.66 ID:nL41DFug0
畜生、チャイムが鳴りやがった。

なんの因果で転入二日目にして授業怠慢せにゃならんのだ。


俺はこれでも真面目な部類に辛うじては入れるくらいの人間性を、

自他共に示してきたはずだ。

それがどうしてこうなる。




あの姉も姉だ。

見てくれと口と勢いだけではなく、

男のプライド云々という交渉術だか揚げ足取りだかまで織り交ぜてきやがる。


退くに退けないという状況に追い込まれたのが心底憎い。



「ちっ」



おっとと、舌打ちなんかしてどうしちまったんだよ俺。


焦ったところで仕方がないだろう。

サボりを問われちまったら問われちまったで、あんパン食中毒を語ればいい。


あの効果は岡崎が実証してくれたからな。

岡崎にできて俺にできない訳があるまい。

たぶんな。




それは置いておくとして、岡崎の奴は旧校舎の方へ行くと言っていたが……

果たして旧校舎のどこなのだろうか。


そもそも、旧校舎の内部構造すら知り得てはいないというのに。



103 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
08:17:00.90 ID:nL41DFug0
探索の掟、だかなんだかを本で読んだことがある。

アタリがある場合を除けば二度手間を避けるため、

端から探っていけとのことだ。


呼び方は別に一人ローラー作戦でもいいが。

要は、地道にやれってこった。



まずは一階からだろう。


なになに、ここは資料室か。

廊下には人気もなさそうだしサボるには持って来いとも取れる。

これは一発目から当たりを引けそうかもしれない。




では、念の為にノックを二度行い、



「お邪魔します」



進入。



「いらっしゃいませぇ~」




迎えられる嬌声。



「失礼しました」



退出する俺。

どうやらここは、何かの店を営んでいたらしい。


後回しにしよう。



108 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
08:38:43.86 ID:nL41DFug0
一階を探るも手応え無し。

腕時計で確認を取ると、授業開始後早くも十分が経過していた。


その事実にうんざりしつつも途中で投げるわけにはいかない。

乗っちまったものは仕方がないのさ、一度やり始めたら男のプライドが邪魔をするからな。




しかし、出過ぎた真似は災禍を招くと予め念慮していたというのに、

結局俺はというと、トラブルの方から飛び込んでくる体質を備えているらしい。


やれやれだよ、まったく。



溜息交えに階上へと向け探っていく。


時間短縮の為に鍵がかかっているであろう場所は素通りし、そんなこんなで最上階へと至った。

階段登ってすぐ右手に演劇部室。左手には長く伸びる廊下。


取り敢えず演劇部室より奥は廊下の突き当たりだったこともあって、そこから探ってみたものの、

室内は雑多な物が累々と積み上げられており、


床には埃すら舞っていたので、長らく使われていないのだろうと悟った俺は早々に切り上げることにした。



次いでの左手方向は、


空き教室、空き教室、空き教室……

と変わり映えもなく続いていき、そのまま終了。


途中、やけに小柄な生徒らしき影を目撃したような気もしたが、


もう一度目を凝らした時には姿がなかった為に、俺の心労から来る幻視なのだということで納得しておいた。



さてと。


おいおい、どこにも居ないんじゃないのか?

残りは何処かあったかな。あとは鍵が掛かってそうな場所ばかりしか残ってはいないが。


まさか、先ほど通り過ぎた図書室だったりするのか?

そんな、授業中に鍵を開け放っておくなど……




などと胸中でぼやきつつ、駄目もとで図書室の扉を引いたところ難なく開いた為、

俺は自身の詰めの甘さを呪わざるを得なかった。




118 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
08:58:53.35 ID:nL41DFug0
図書関連の場所は、あまり好きになれない。

それをこの場に措いてとやかく言った所で仕方がないものではあるが。




まあいい、当初の目的は果たせそうだ。何しろ見付けたんだからな。

ついでに小言を告げねばならんだろう、この状況は。


まずは何処からツッコミを入れるべきか。

ええい、面倒だから全部いこう。



「岡崎、お前のせいで俺の頭が飛散しそうだったんだぞ?


 それからな、全国にごまんと存在している図書室は八割方、飲食禁止という方針を打ち出しているはずだ。


 そこへ授業中忍び込んで堂々と弁当ランチに勤しむってか。

 まあそれはこの際いい、学校で鍋食ったことがある俺が言えた義理でもないしな。


 しかしだな、なんだそれは?

 授業を抜け出したかと思えば、これまた輝かしいほどの女生徒と逢引か?


 更には一つの弁当をつつき合っていると来たもんだ。

 おい、そこの君。そのクッションはなんだ。床に座るな、椅子があるだろう?


 御本を読み易いようにと温かな配慮を施され、用意されている椅子に座らずしてなぜ床に座る?


 それに見合う合理的な理由を単刀直入に聞きたいね、俺は」



これで足りたか?


いや、床に散りばめられている本にはまだ触れていなかったな。

よし!



「ちょ、ちょっと待てよ、落ち着け!」


俺の口を塞ぐべく先手を取った岡崎が、神妙に切り出した。



「俺にも良くわからないんだよ、この状況の意味が」




お前にわからないんなら、今し方ここへと誘われた俺には輪を掛けて理解しようがない。

なるほどな、この場は岡崎に委ねるとしようか。




122 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
09:12:30.09 ID:nL41DFug0
いい加減に疲れて腰が痛い

遅蒔きだが起点を書かなきゃ芽が出ないってことで勘弁してくれ

ということで休憩


CLANNADやったの数年前だから書いてて懐かしすぎる

220 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
23:17:30.77 ID:RJnmqkIy0
こないんじゃね?



221 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
23:17:57.94 ID:uL16dVsP0
多分もうこないよ・・・



222 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火) 23:25:16.83 ID:nL41DFug0
いや、たぶん来ると思うよ



225 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
23:29:35.61 ID:uL16dVsP0
>>>>>>>>>>>222




227 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
23:30:30.58 ID:mbCkq2g10
>>222

wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww



228 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
23:30:29.14 ID:EHpJBRdu0
>>222

あああああああああああああああああああ!



229 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
23:30:37.10 ID:nKiwf9kN0
>>222



242 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
23:57:30.79 ID:nL41DFug0
すまんね、暇だと思ってたのに予定が一日ズレたもので

で、今読み直してるからもう少々待っといて


元々ココア飲みながら読む物語を目指してたんで、

読む方もそんな風に心構えてくれればこれ幸い

261 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
01:42:52.64 ID:u7GLEB/s0
「なんだそりゃ」



岡崎の釈明を一通り聞き受けた俺は、そう呟くほかなかった。

その内容はこうだ。




例によって授業を抜け出していた岡崎が安息の地を探していたところ、

偶然、通りかかった図書室の扉が開いていることを見取り、


「珍しいこともあるものだな」という思いから中の様子を伺った。



するとどうしたことか。




なんと、用意周到にも持ち前のクッションを床に敷き、女生徒が堂々にも鎮座しているではないか。


さらには外国語で書かれた小難しい本を読み耽っている。

不可思議に思った岡崎は、すぐさま訊ねた。



「何をしているんだ?」




しかし全くの無反応。

嗚呼、無常かな。

まるで空気のように扱われたため、一抹の寂しさが岡崎青年を襲ったのだ。


それでもめげない青年は、その後も執拗に女生徒を視姦し続けていたのだが。



ここで事態急変!




女生徒がおもむろにハサミを取り出すと、

「ハサミー!」

と叫びつつ蔵書を切りぬき始め――

265 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
01:58:29.20 ID:u7GLEB/s0
「お前、少し黙れよ」



岡崎が俺の語りを制した。

まあ、冗談交じりに半分近く誇張してしまった部分は謝ろう。


だがな、俺だって転入二日目にして立派に授業を抜け出すという荒技を、

否応も無くやってのけさせられたのだ。


こうでもしなきゃ、とても憂さは晴らせない。

岡崎だって、少しは同情してくれてもいいだろう?



「俺が知るかよ。


 文句があるなら直接的に杏に言え、俺だってあいつにゃ手を焼いているんだからな」



そりゃ至極ごもっともな見解だ。


とはいえ、俺が杏相手に不平を述べたところで、

新品のトラブルをオーダーしちまうことは公式ばりに自明の域まで達している。


あいつとは僅かばかりにしか対面していないが、

ああいうタイプの特性は、人様にとやかく説明されるまでもなく解ってしまうからな。




「やれやれ」



また溜息を吐いちまった。

それもそうさ、もう授業開始から20分少々経過している。


今さら戻って教室中からの視線を集めるより、

保健室にでも行っていたのだと、適当な方便を用いて切り抜けるべきな時間帯だ。




一体どうなるものかね、俺の行く末は。

転校初日の「普通の進学校だ」という確信と、「無難に過ごそう」という俺の想いは、


現在進行形でピシリとした音を立てつつ崩れ去っているような気がするぜ。



269 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
02:18:01.57 ID:u7GLEB/s0
かのようにして手持無沙汰となってしまった俺は、

小ぶりの弁当片手に俺達を眺め上げていた女生徒へ訊ねてみることとした。




「顔に似合わず、堂々と授業を抜けるとは何者だ?」



女生徒は無言のままキョトンとした眼を揺らし、同時に両頭の髪飾りも転んだ。


そのあまりに無防備な仕草は、まるで外敵を一度も見たことがない草食動物とでもいうべきか。


端的にするならば、おっとり……いや、のんびりとでも形容すべきか?

違う、もっと別の常人らしからぬ雰囲気だ。



浮世離れ。




そう、正にこの言葉が一番しっくりきそうである。


出で立ちも、肩甲骨辺りまでのセミロングヘアで、両サイドは丸く子供染みた髪飾りで留めており、


体型がふっくらというか、まあつまりは男にとって大事な部分が得盛りであり、


故にそのアンバランスさは、子供と大人の境界線、無知でいて博識、強硬でしなやか、


などという対極にあるべきものを同時に兼ね備えているようにも思える。



と、このように、俺が長々と観察できるほどの間が空いてしまったのだ。


つまりは、彼女は俺の質問に答えちゃくれなかったのさ。



岡崎も、さぞ辛かったろうに。

うん、俺も辛い。



270 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
02:28:35.94 ID:u7GLEB/s0
この重い空気をどのようにして吹き換えるべきか。

俺が本気で悩み始めた頃だ。



「ことみ」




妙に透き通った清流のような声で、彼女が呟いていた。

俺はその言葉の意味を探ろうと頭のなかで検索してみるも、どうにもヒットしない。




「ええと、つまり?」



パードゥンの意を伝えてみる。よく聞き取れなかったからな。


もう一度聴けばわかるだろうと俺は踏んだのだ。

しかし彼女は視線を落とし、首根を抑えて黙り込む。

そこでようやく気が付いた。




「すまん、見下ろしていた」



雰囲気に呑まれて当たり前の気遣いも出来ていなかったことを恥じ、


俺もしゃがみ込んで視線を合わせる。

岡崎もなぜか俺と同様にしゃがんだ。

さて、



「つまり?」



273 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
02:44:16.36 ID:u7GLEB/s0
「おとといは兎を見たの。昨日は鹿。今日はあなた」



女生徒は俺――ではなく、

俺の隣にいる岡崎に視線を合わせて語りかけた。




って、ちょっと待て。

さっきとは文脈が全然違うし、そしてやはり意図が掴めない。

まさか俺の日本語が通じていないのか?




「でもあなたは余計」



今度は俺に視線を合わせての一言だ。

それにより、どうやら俺は余計らしいということが分かった。


さらに微妙な間を置いてから女生徒が続ける。



「わたしはことみ。みらがなみっつでことみ。呼ぶときはことみちゃん」




……で、静寂が訪れた。

彼女は僅かな満足感を表情に浮かべているので、これにて寸劇は終幕という方向らしい。




なるほどな、ことみというのはこの女生徒の名前だったのか。

たったそれだけの自己紹介に、こちらがどれほどの時間と労力を割いたことか。


まあいいさ。



「俺は――」

「岡崎朋也。こっちがキョンな」



またかよ。偶には俺にも名乗らせてくれ。




279 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
03:01:03.56 ID:u7GLEB/s0
その後も岡崎が二言三言交わし、漏れ聴こえてきた情報から、

女生徒の苗字が”一ノ瀬”であるらしいことを知った。


さて、取り敢えずは図書館の主らしき人物と一通りの挨拶は済ませたのだ。

プリントも岡崎に渡したので他にやるべきこともない。


時間を潰すとしよう。



そうそう、不良には見えない女生徒が何故、授業中だというのにここに居るのか。


それが気に掛からないといえば嘘になるが、

かといって上手く進行しない会話に労力を注ぐ必要性も思い当たらない。


それに変に深入りするのも妙だしな。

好奇を持って首を突っ込むと大抵ロクな結果を招かないことは、経験則からも則れる。




かくして俺は近場の椅子へと腰掛け、適当に目に付いた本に目を通していくこととなった。

ふむ、桃太郎か。

懐かしいぜ。


ひとつ、朗読でもしてやりたい気分だ。



はぁ。

授業中に何やっているんだろうか、俺は。



280 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
03:17:07.67 ID:u7GLEB/s0
昼休みまで残すところ十分となると一ノ瀬がクッションを片付け始め、

それに倣って俺も本を片付けることとした。


不覚にも俺は読書熱が再燃し掛けていたので、

桃太郎だけには留まらず、金太郎にまで手を出しおり、


あまつさえ先が気になり始めたところだったが致仕方あるまい。



一ノ瀬が身辺を片付け始めたということは、


そろそろ俺たちもここから出なければならないということを指しているのだろうからな。


きっと、昼休みになると大勢の生徒達が図書室へと遊びにくるのだろう。

恐らく、それを避けるべくの行動なのだと察する。




「朋也くん、起きてくださいなの」



いつの間にか整理整頓を終えていた一ノ瀬が、机に突っ伏している岡崎を揺すっていた。


よくよく考えてもみれば岡崎のやつ、寝てばかりだよな。

何か原因があるのだろうか。




「おい岡崎、そろそろ起きないとまずいんじゃないのか?」



一向に起きないので、俺も一ノ瀬に加勢した。


それによりようやく目覚めたらしい岡崎は寝ぼけ眼を擦りつつ、



「なんか夢を見ていたような」




という呑気な呟きを残してくれたわけだ。

こいつは授業をサボることに対しては、最早なんの躊躇もないらしい。



284 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
03:41:53.58 ID:u7GLEB/s0
一ノ瀬と別れ、岡崎と共に一般生とより少し早目に学食へ。

正式にはまだ昼休みではないのだから当然ではあるが、


広いスペースに並べられた席は、そのどれもがガラリと空いている。

俺としてはこんな時間にこんな場所をうろつくのは憚られるんだが、


お利口にもチャイムがなるまで何処かに隠れているのも何か情けないし、

人が混み合って鬱陶しくなる前に食事を済ませておきたいのが本音でもある。




かくして、この学校での”当たり”はどれなのかと食券販売機を眺めていた俺に、

岡崎がぶっきらぼうに呟いたのだ。




「俺、牛丼でいいぜ」

「阿呆かお前は、こちとら転校してきたばかりで金がないんだよ」

「チッ……」




端から見れば恐喝の現場のように思えるが、これはこいつなりの冗談のはずだ。

自分で言うのもなんだが、俺は他者の思惑を見抜くことにおいては、


全国区の平均点より上を狙えるんじゃないかと思っている。

決してそうなることを俺が望んだ訳ではないが、まあそれなり色々な憑拠があるわけで。


……やや話が逸れたので元に戻そう。

ともかく岡崎の冗談は、受ける人によってはそれが間違いのない敵対心だと錯覚させてしまい、


衝突のキッカケになりえるには十分なほどの攻撃性を孕んでいるのだ。

火薬庫みたいなやつとでも言えばいいのか。



「あ、牛丼で」


俺が給仕のおばちゃんに券を差し出すと、

「おや、不良仲間が増えたのかい岡崎くん?」

などと嬉しくもない笑みを投げかけられてしまった。


こんな時間にここへ居ることに対してのお咎めが無いのを喜んでいいのか悪いのか。



ある意味、新鮮だ。



287 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
04:04:00.31 ID:u7GLEB/s0
「で、なんでお前はこんな時期に転校してきたんだ?」



うどんをひと啜りした岡崎が訪ねてくる。

俺も箸を止めて答える。




「まあ、色々あるのさこっちにも。俗に云う、家庭の事情というやつだ」

「けど結構遠くから越してきたんだろ?」

「そうだな」


「だったら、金がないのにどうして私立へ?」



変に鋭い奴だな、こいつは。

俺はそれらを説明するべく、手短に纏めて伝えた。




「公立から私立って……住屋が無いからって、普通そこまでするものなのか?


 それに、学費やら学校具やらで却って金を食いそうな気もするんだけどな」


「そこらについては妹だとかなんとか、口にするのも面倒なほどに雑多な理由があるんだよ。


 幸いにも、こっちで世話になっている家主さんも良い人みたいだったしな。

 加えて、制服やら鞄やら値の張る日用品については、


 家主を通じて幸村先生が前期生をあたってくれたようで、無償で手に入ったんだ」

「やけに風向きがいいな」


「ま、俺の日頃の行いが良かったのさ。親が転勤した時点で悪いだろ、というのはナシだ」



そこまで俺が話したとき、昼のチャイムが鳴った。




290 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
04:28:05.95 ID:u7GLEB/s0
ぞろぞろと巣へ戻ってくる蟻のような人波で、食堂が賑わいをみせ始めた。

その蟻の群のなかに一人だけ、やけに目立つ髪色があったかと思うと、


それがこちらへと歩み寄ってきた。



「おはよー! やっぱりここに居たかー!」



「よう、キョン。」

俺の名前はオマケのように付け足す、春原だった。



「今はもう、こんにちはだ」

すぐさま皮肉った岡崎に、

「もっともだな」


俺も賛同する。

しかし今まで寝ていたのか、こいつは。

もはや毎日遅刻だなんていうレベルじゃあないな。

にしても、


「よくここだと分かったもんだな」



俺が微妙な感心を述べると春原は陽気に笑いながら答えた。




「僕と岡崎の仲だしね。それに岡崎が昼に教室にいないとなると、あとはここくらいのもんだし。


 ついでに僕がさっき教室へ鞄を置きに行ったらさ、杏の奴が、

 『行方不明の朋也を追うべく、捜索隊員のキョンを派遣した』なんて言ってたんだよ。


 キョンが一緒にいるんなら益々、昼メシ食べにここへ来るはずだからな。

 ってことで、とりあえず僕もなんか頼んでくるか」




おいおい、俺はいつから捜索隊に配属されたんだよ。

まるでこれから先も働かなくちゃならんと示唆されているようじゃないか。



293 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
04:46:04.28 ID:u7GLEB/s0
春原が大盛りカレーを抱えて席へと座った着いたところで、

俺は先ほど岡崎にされた質問タイムの仕返しだとばかりに訊ねた。




「お前達二人っていつも眠そうにしているよな。

 夜通しのアルバイトでもやっているのか?」




もし良ければ紹介して貰いたいという思いも込めての質問だったが、

肩透かしの内容を返したのは口数の多い春原だった。




「べっつにぃ~。今はやってない。

 前にやってたスーパーのレジ打ちですら、人通りが多いせいもあって……というか、


 たぶん僕達に怨みを持った生徒が告げ口したんだとは思うけど、

 結局は見つかって謹慎食らわされちゃったからね。


 ここの学校って比較的真面目だから、バイト禁止だし」



だけど、許可を取ればいいんじゃないのか?




「まあそうだけど、僕や岡崎が『家庭の事情で』なんて言って信用して貰えると思うか?」

「その許可を決定的に駄目にしたのがお前なんだけどな」




岡崎が割って入り、右手で何かを握るような仕草を見せるとクイと回した。


なるほどな。アルバイトで得た金を元に、パチンコやっているところを目撃されたと。



「そういうこと」



岡崎が重く息を吐く。




296 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
05:09:47.19 ID:u7GLEB/s0
さらに春原。



「それからも何度か転々としてはみたけど、その度に見つかるわ処分が厳しくるわでさ、


 ただでさえ悪い評判がさらに悪くなっちまって、次やったら後が無いとまで言われる始末。


 まさか、こんな僕達が涙ぐましくも新聞配達なんかに汗水垂らす訳にもいかないでしょ?

 割も良くないし、何より僕は朝が苦手だからね。


 となると、ここらで夜に、そして発覚しにくいという意味で安全に働けそうな場所っていうと、

 あとは居酒屋くらいのもんでしょ?


 だけど万が一、そんな店で働いているのがバレた時にゃあ……ねぇ?」



間違いなく、学校には居られなくなるだろうな。


それに噂とはこの街にいる以上、必ず漏れるものだ。

例えば居酒屋を訪れた人物の子供がここの在学生であり、


その情報が親を介して子へと伝えられた末に、またも告げ口なり世間話の延長線上なり、

まあそれら全部のパターンを挙げれば切りがないが、


とかくして伝わったものが最終的に教師陣へと至って――ジ・エンド。



「流石にさ、僕も岡崎も三年になって退学なんか出来ないからね」


「当り前だろ」

そうなのか、お前達はお前達で苦労したんだな。

なんにせよ、俺には少しばかり遠い話だ。




「キョンは僕達と違って真面目くんっぽいからね。雰囲気的にだけどさ」




まあ、今日少しばかりではあるが、道を踏み外し掛けちまったがな。



「ははっ、それもいいじゃないか。面白そうだし」




サラリと怖いことを言わんでくれ、春原よ。

俺は平穏で無難に生きたいんだから。



300 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
05:30:59.98 ID:u7GLEB/s0
で、結局俺は最初の質問へと戻るわけだ。



「今はアルバイトをやっていないんだろ?


 だったら、授業に出席するくらいはしたらどうだ?」



春原が梅干しのように顔を顰めた。




「もう僕たちの習慣になっちゃってるしね、このスタイルが。

 それに真面目に受けるのもかったるいし、大体やってもわかんないし、


 眠いのはマジだからしょーがないんだって」



「なんで眠いんだよ?」



「いやぁ、日課というかなんというか、夜になると寮で岡崎と駄弁ってるからさ。

 あ、寮ってのは学校付属のもんで、僕が住んでるところね。


 それで、気が付きゃ深夜、それから寝てたらアラ不思議!

 必然的に昼になっていましたとさ、めでたしめでたし」




「めでたしめでたしを最後に付ければ、何でもハッピーエンドになると思ったら大間違いだぞ。


さっき読んだ桃太郎だってな、鬼側にしてみりゃ凄惨たる有様だし、

花坂爺さんだって、瘤取り爺さんだって、悪役を担わされた爺さんは気の毒なもんだ。」




「なに昔話相手に熱くなっちゃってんの?」



「さっき読んだら懐かしかったもんで。

……すまん、話の腰を折っちまった。続けてくれ。」



305 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
05:44:04.28 ID:u7GLEB/s0
「キョンって変な奴だよな、やっぱり」

「俺もそう思うぜ」



「唐突に二人して俺を変人扱いしないでくれ。

これでも至ってノーマルな一般人であることを自負しているんだから。」



「だって変じゃん」




進学校に存在する唯一の金髪野郎に言われてもな。

供述にはせめて理由くらい並べておけ。




「安心しろ、俺も保障しておいてやるよ。二対一の多数決で可決ってやつだ」



「なんだ岡崎、そのニヤリとした笑みは?」



「さあな」



やれやれ。

変人認定的なポジションなんて、微塵もありがたくはないね。



308 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
06:00:32.77 ID:u7GLEB/s0
「さぁ~て、そろそろ教室にでも戻りますかぁ~!」



俺が食い終わのるとほぼ同じくして、


大盛りカレーを見事に平らげていた春原が、意気揚揚と宣言した。



「いちいちオーバーリアクションなんだよ、お前は」




岡崎がすかさずツッコむ。

その岡崎のポジションこそが、本来の俺だとは思うんだけどな。

まあ変な贅沢は言うまい。




「御馳走さんでした」



俺が食器の片付けついでに給仕のおばちゃんに述べると、



「あんまり悪さはしないようにね」




という微妙な気遣いを施されてしまった。

一緒にいただけで誤解されているのかよ。




「そんなんじゃありませんよ、今日は偶々ですからね。俺はただの転校生です」

「そうなのかい?」

「そうですとも」


「まあそうは言っても、どっちにしたって何も変わらないんだけどね。

 じゃあね、また来て頂戴な。岡崎くんと春原くんも一緒にね」




うぃっす、という具合に体育会系のような返答を両名が行った。

この慣れよう。

二人は、学食の常連だということか。



311 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
06:26:34.14 ID:u7GLEB/s0
俺の昼休みがフライングで始まったせいか、

教室へ戻って時計を見ると、時間にはまだ充分の余裕があるようだった。


そんな俺の肩をポンと叩きながら一声。



「御苦労」



振り返ると歩く危険物、杏が腕組みしていた。


腰ほどまでのストレートな髪。左頬側には特徴的な白のリボン。

本人にとっては常態なのだろうが、


常に意志の強そうな眼光と、大胆不敵な微笑を秘めており、

それらが俺にとってはどうにも苦手と映ってしまうのだ。


俗にいう、口を閉じ淑やかにしていさえすれば、可愛いと持て囃されるタイプ。

故に俺は顔を合わせる度に、自身へと強く言い聞かせるのだ。




「そりゃどうも」



当たり障りなく応対し、こいつとは深く関るべきでないと。

こいつは厄介の代名詞なのだと。




「素っ気ないわねぇ、アンタ」

「これが性分なもんで」



本当は言い返してやりたいんだがな。




「ふーん、ならいいけど」

じゃあねぇ~、と軽やかな足取りで教室から出ていった。



何しに来たんだよ一体。


妹の様子でも見に来ていたのか、或いは俺の働きの視察にでも来たのか。

どちらにせよ、俺にとっては迷惑な話であることに変わりない。



316 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
06:53:59.52 ID:u7GLEB/s0
「面倒な奴に目を付けられちまったようだね」



俺が自席に戻るなり、窺っていた春原が呟いた。


蛇足ではあるが、この台詞だけ聞けば格好良く思えるのかもしれない。

しかし杏が俺の傍に居た間、肝心の春原は、


杏から十二分な安全距離を取っていたのがなんとも情けない。

とはいえ、仮に俺と春原の立場が逆だったとしたら、俺も春原と同じことをしていたであろう。




「あいつは戦神の生まれ変わりだから、せいぜい首を刎ねられないように気を付けることさ」




春原が得意気に語るのは、これまで実際に受けて来た仕打ちからくる、経験則なのだろうか。

しかしだな。




「そういうことを軽々ながらも口にすると、危ないと思うぞ?」

「へっ、どうせ聴こえやしないさ」




ここにきて頬杖をついていた岡崎も口を挟んできたようで、

「ほら、よく言うじゃねぇか。壁にナントカって」


その岡崎の二の句を継いだのは春原だ。

「それってアレだろ、壁に耳あり障子に――」



――メアリー……




だが春原の言わんとした内容を改変し、強引に三の句を受け継いだ奴が居た訳だ。


春原の背後に差し迫っていたそいつは続けざまに、低く地鳴る声で宣告した。



「あたしメアリーさん、今あなたの後ろに居るの」




フゥー、と春原の首筋に息を吹きかけ、春原が竦み上がり……。

あとのことは俺が語るまでもないだろう。



320 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
07:14:41.32 ID:u7GLEB/s0
結局、この日にあった出来事の中で、めぼしいことといえばそれくらいなもので、

終礼を交わした後の俺は一人で帰途を辿り、適当に課題をこなし、


一応、抜けていた分の授業内容を取り戻すべく、適当な自習を済ませた。



さてというように、あとは寝るだけとなりベッドに寝転がった俺は、


机の上に置かれた携帯電話を眺めながら今日のハイライトを回想していた。



岡崎が遭遇したという、上り坂に佇む少女。


大人しく謙虚な妹と、その反動の塊のように凶暴な姉。

謎の資料室。

図書室にいた浮世離れな女生徒。

そして岡崎と春原。




なんてこったい。

こうやって考えてもみりゃあ、アクが強い連中ばかりじゃないか。


とはいえ、なんだかんだで大して驚いていない俺も客観的にみればどうかと思うがな。



やれやれ。

どうなることやら。




頼むから面倒ごとだけは勘弁してくれよ?

それさえ起こらなければ、俺は他に高望なんてしないんだからな。






以上のようなことを何度も考えているうち、俺は眠りへと堕ちていった。



373 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
15:42:19.57 ID:u7GLEB/s0
俺に意識があることを自覚した時には既に、

重い、息苦しい、という二つの体感覚に苛まれており、


それらによって俺は、微睡みのなかから強制的に引きずり起こされることとなった。


その原因が何かのかを理解し終わるよりも早く、ボヤけた視界のまま体を起こしてみると、

コロリと布団の上へ転がり落ちた奴がいたもんだ。




家主の猫である。



白をベースに、四足の先や耳、鼻の周りと尻尾などが焦茶色という野良ではあまり見掛けない風体。


スラリと伸びた体躯は上品なシャムネコを思わせるが、その性格は至って乱暴であり、


ここで世話になる際、一緒に連れて来ざるを得なかったシャミセンは連日のように追い回されている。

ちなみにメス猫だ。



「みゃぅー」




なんて具合に掛け布団の上で、のびっと四肢を張り、欠伸しつつの気の抜けた鳴き声。


すると俺の布団のなか、足元の辺りに潜り込んでいたシャミセンがビクリと震えたのが伝わってきた。


やれやれ、お前達動物界でも引っ越し騒動は大変なんだな。



「ほれ」



猫の前に人差し指を突き立ててみる。


慣れていれば摺りよってくれるのだが……



「みゃうん」




ツンと鳴かれたかと思うと、ピシャリと猫パンチによって拒絶の意を示された。

どうやらまだ住人としてはまだ認められていないらしい。


それでも、こうやって近づいてくるようになっただけで進歩ってことなのかもしれないが。


まあ、この家の住人として認められるのが、果たして良いことなのか悪いことなのか、それも定かではないがな。



375 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
15:59:51.26 ID:u7GLEB/s0
「おはようございます」



身支度を済ませ階下へ降りるなり、やんわりとした声に包まれた。

家主のものだ。




「おはようございます」



俺が今ひとつ心を許せないといえど、


挨拶を無視したり等という、子供染みたあからさまな態度を取るようなことは当然しない。

そもそも世話になっているのは事実だからな。


客観的に一般論を以って論じてみりゃ、こうやって警戒する俺の方が不審ってもんだ。



「朝御飯、もう出来ているわよ」


「すみません、何から何まで」

「いいの、気にしないで。賑やかなのはいいことだと思うから」



頬に手をあてた婉然たる笑み。


良心をそのまま具現化したような人物像。

それを前にすると俺の心も僅かに揺らぎそうになるが、やはりスタンスを変えようとまでは思わない。


なにより俺自身が、そう思い込もうとしているからだ。

注意を払うべきだと。



「お弁当は、必要ないの?」


「ええ、学食の味も見ておきたいもので」



というのが適当に並べたてた御託であることは自明だ。


あまり深入りすべきでないとの考えから、この受け答えが常と化している。



377 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
16:11:30.39 ID:u7GLEB/s0
「そう」



家主が漏らしたその一言には、どのような意味が込められているのか。

言葉としてよりも表情で語る部分の多い人なので、


俺にとってはどう受け取るべきなのかが今一つはっきりしない。

曲解すれば、見せかけの笑顔、ともとれる。


いや、それは受け取る側である俺が捻じ曲がっている所為なのだろうが。

と突然、階段を駆け下りてくる足音。




「おはよーございますっ!」



次いでの気勢のいい挨拶は、俺の妹のものだった。



「あら、おはよう」

「よお」




俺と家主で返す。

それから三人での朝食の席となり、当たり障りのない会話を肴に箸を進めていき、


やがて俺は登校するべく家を出る形となった。

そうそう、日課のように妹へ中学校の様子を尋ねたところ。



「だいじょーぶだよ」




と満面に笑っていたので、

相変わらず我が妹は上手く世を渡っていけているのだと俺は安心した。



380 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
16:28:55.75 ID:u7GLEB/s0
蛇のように矢鱈めたら曲折している登校路を辿っている最中、

ふとこんな考えが過ぎった。




俺が前住んでいた街中と比べれば、相対的にこの街はかなりの田舎に値する。


故に人の手が入りきっていない部分が多く、言ってしまえば自然が多い。

そこかしこに林があり、鬱蒼と木々が茂った場所が存在しているのだ。




もし、これらをすべて斬り払って直線的な道に挿げ変えれば、

登校に掛かる時間を一体どれだけ短縮できるのであろうか。


これを毎日往復するのだから、合計時間に換算すればそれなりに浮くはずである。



大体、一往復に掛かる時間が……




と計算し始めたところで馬鹿馬鹿しくなって俺は思考を停止させた。

朝っぱらからエネルギーを無駄遣いするのも癪だし、


計算したところでどうにかなる問題でもないのだ。

それにここが如何に田舎といえど、何れは発展していく運命にあるのは確実。


現に街のそこかしこでは道路舗装だとか区画整理が目に付くし、


これから何十年後かには、俺の街となんら変わらない程度にまでにはなるのだと予想もできる。




もしもその時の俺が暇だったとしたら、その時に実測すればいいだけさ。

恐らく、やらんがな。




考える事がなくなったので溜息交じりに携帯電話を取り出すと、

手持無沙汰を埋めるように開いてみた。


光が灯らない画面には、代わりに俺の顔がぼんやりと映り込んだだけだった。



383 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
16:40:33.06 ID:u7GLEB/s0
朝のホームルーム後、一校時目までの空いた時間のことだ。

珍しくも不良二人組の登校(それでも遅刻だが)を認めた俺は、ぶしつけにも訊ねていた。




「こういうことを言うのもアレだが、お前達って良くこの学校へと入れたもんだな」




本当に何という不躾な質問をしているんだろうな、俺は。

まだ出会って三日ばかりしか経っていないというのに。


だがしかし、これくらいならば許されると思えてしまうのも妙だ。

現に、春原は笑いながら回答してくれたのだから。




「ぶっちゃけた話、僕と岡崎は馬鹿だからね。

 だけど、うちは進学校であると同時に、割かし部活動でも強豪が揃っているんだよ」




そうか、改めて考えてもみればこの学校は私立校じゃあないか。

つまりは公立校に比べて潤沢な資金を自由に動かせる為、施設の拡充を賄える訳だ。


私立校ってのは言ってもみれば一般的な商店と同じで、

いわば金目当てに経営している、というと些か語弊があるのかもしれないが、


ともかくそうやって特色を付けることで生徒、つまりは客を呼び込み次へと繋げていく性質を持っている。




だからスポーツだけに限らず、何らかの特色を持っている場合が多いのだ。

ってことはだ、

「お前達って、スポーツ特待生とかなのか?」


「御名答」



人差し指をピンと立てた春原。



「まあ、速攻で辞めたんだけどな」




それに続いた岡崎が、流れを断裁した。

なんだ駄目じゃないか。



388 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
16:53:01.33 ID:u7GLEB/s0
とはいえ、これで朧げながらも浮き上がってきたように感じられる。

この二人が、こうにまで自堕落な原因と、周りから忌み嫌われている理由が。


だから俺は言った。



「そりゃまあ、推薦なりで入学しておいて辞めちまえば教師陣からも疎まれちまうわな。

 だけど何があったんだ?


 今は部活をやっていなくとも、元々特待生に選ばれるくらいだったんだから、

 運動も出来たんだろうし、それなりにスポーツも好きだったんだろ?」




ここまで訊ねた時だ。

不意に俺は、空気が重くなったような錯覚を覚えた。

だが、春原はいつもの調子を保ったままで続けていく。




「ま、大したことじゃないさ。

 僕はサッカー部だったんだけどね、縦繋がりがあまりに下らな過ぎたんで辞めてやったんだ。


 ただ、そんだけ」



素っ気なくだ。

となると、次は自然と岡崎に視線が移ったのだが……。



389 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
16:53:23.60 ID:u7GLEB/s0
「俺の方も大した話じゃない。春原と似たようなもんだ」



やや遅れての回答は、吐き捨てるようなものだった。

すぐさま春原が補足する。




「まあ、岡崎はバスケをやってたんだけどな。

 そこもなんというか縦がな、その、面倒くさかったんだよ、特に」




春原の曖昧に返答する姿を見て、俺はこの質問を軽々しく口にするべきでなかったと反省した。

たかだか顔見知りに毛が生えた程度だというのに、


愚行にも俺は抱いてしまっていたのだ、慢心を。完全に失態だ。


「すまん、二人とも。」



「いいっていいって、気にすんなよ」




謝罪の意を示した俺に、春原は相も変わらずだった。



392 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
17:04:03.87 ID:u7GLEB/s0
返す刀で春原が訊いてくる。



「そうだ、そういやキョンはどうなんだよ?」

「何がだ?」


「お前も、前の学校で何かやってたりしなかったのか?

 まさか顔に似合わず超有名選手だったりしてなっ!」



顔は余計だろうが、




「そんなんじゃねぇよ」

「ま、そうだとは思ったけどね」

「有り来たりな文芸部だ、単なるな」




ふーん、と春原がしたり顔で笑い、続けた。



「まあ、なんとなくだけど口調に出てるからな」

「溢れ出んばかりの知性がか?」


「馬鹿か、面倒くささと小難しさがだよ。

 時々、言葉の意味がわかんないしな」



「そりゃお前の知能が足りてないからだ」


との辛辣な意見を突き刺したのは、岡崎である。

「なら、今度からは読み仮名でも振っておくようにするさ」

俺も続ける。




「一言も二言も多すぎるんですけどねぇ、二人とも!」

春原は激高し、

「はぁ……キョンが来てから、岡崎が二人に増えたみたいだよ」




そう零した。



401 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
17:18:27.35 ID:u7GLEB/s0
「あのぉー……」



控え目に窺う声。

ともなれば、それは藤林なわけだ。


どうやら、今朝方のホームルームで配られたプリントを手にしている。

健気だねぇ、まったく以って今どき、貴重な人種だよ。



「ああ」




岡崎が面倒に受取り、机の中へと捻じ込んだ。

それを目にした藤林の表情には、少しばかりの影が差したように見えた。




「それ、保護者へ向けての内容なので、一応は家の人に見せておいてください」

「……」




沈黙し表情の硬い岡崎を前に、おっかなびっくりの藤林だが、やはり彼女も退かない。

やがて岡崎は根負けしたのか、

「わかったよ」


またも頬杖で承諾の意を示した。

これで藤林も席へ戻るかと思いきや、さらに続けていた。




「でも、安心しました。二人とも、ちゃんと出てきてくれたみたいで」



まあ、こいつらが今日に限って早めに出て来たのは、


本日提出しなきゃならん数学の課題対策として、俺のを写すためだったんだがな。


昨日俺が言った「今からでも間に合う」という話の弾みで、勉学について僅かにだが助力する、

という旨を伝えていたからこうなったんだが。




ま、やり方はアレにせよ、課題を提出する意志を見せただけ良しとするか。

「補講が嫌だから」という目先からの逃避が動機であるにせよな。




407 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
17:33:40.27 ID:u7GLEB/s0
一校時目。

まだ温まりきっていない静かな空気のなか、

教師が淡々といった様子で知識を授けようと画策している。



らしい。




らしいというのは、岡崎、春原の両名が居眠りしているというのに、

当の教師は注意すら行わず、居ないものとして扱っているから、


俺の眼には少なくともそのように映ったのだ。

察するに、この学校で永らく過ごしてきた人間からすれば、


それが当然のようにそこに在るべき風景の如く、

意識しなければ視認できないように見えてしまうのかもしれない。




ちょうど、この街へ来たばかりの俺が、風景の味の違いに気付かされたようにな。



こんなことを思案したところで仕様のないものであるが、


どうにも勝手が違っている。違いすぎている。

俺がもといた学校とはな。




岡崎達に限らず、様々な事象が、良い悪いは別として、何もかもがだ。



「はぁ……」



また溜息が漏れちまった。


考えているうちに元の学校での担任教師、岡部の顔を思い出したからだ。


あいつならばきっと、こいつらを叩き起こして上で、ローリングソバットを喰らわせていただろう。


なんだかんだで、転校する際には俺も世話になったからな。



その計らいに対し、改めて礼を述べなければならないと気が付いた時には、


俺がもう街を離れてしまった後だったが。



437 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
19:18:15.02 ID:u7GLEB/s0
で、今日こそは災難を勘弁してくれという俺のささやかなる願いも虚しく、

狙い澄まし、嘲笑うかのようにこの学校では騒乱というものが巻き起こる訳で。


一校時目が終了した直後の休み時間のことだ。



「おい……なんかヤバいのが来てるぞ……?」




クラス連中が騒ぎたて始め、一様にベランダへと飛び出していった。

まあ、そうなるだろうな。

こうにもバイクの排気音が鳴り響き、


ベランダ側に面した校庭を縦横無尽に走り回られてはな。



「面白そうなのが来たみたいだ」




気色を得た春原に続き、俺と岡崎もベランダへと移った。



「1、2、3……」




春原が指を折ってバイクと、それに跨る人数を数えている。

俺も心内でざっと数えた。


どうやら狼藉者の数は、十に満たない程度のようだ。



442 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
19:30:10.23 ID:u7GLEB/s0
バイクの奴等は何かを叫んでいるらしいが、

自身が生みだしている騒音に掻き消されてしまっては、聴き取るのも不可能だ。


伝えたいんだったらエンジンを止めりゃあいいのに。

でなけりゃ、プラカードなりカンペなり用意してこいよ。



「まったくだな」




岡崎も俺の意見に意を連ねたようだ。

しかしこうなると厄介、教師陣が出てくるのを待つほかあるまい。


俺にはどうすることも出来ないからな。

そう踏んで、傍観を決め込もうとした時だ。



「おおっ!」




という歓声が沸いた。

同時、校庭へと続く道のりを、

一人の女生徒がストレートの髪を揺らしながら堂々と歩んでいた。


BGMとして威風堂々でも掛けてやりたいくらいのその様。



「智代だ、智代が出て来たぞ!」



智代……?


あいつの名前か?

いや、そんなことはどうだっていい。

一人であんな奴等の輪の中に飛び込んだりすれば、危ないに決まっている。


まさかダンスの誘いにでも来たわけじゃあないんだから。



「おい!」




すぐさま俺が二人の肩を叩いて意志を伝え、俺達は階下へ向かって走り出した。



449 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
19:38:26.45 ID:u7GLEB/s0
走りながらの道中、春原が笑った。



「やっぱ、面白いものは特等席で目にしなきゃなっ!」



アホか。


そんな下らん野次馬根性で動いているわけじゃない。



「だったら、どうしてキョンは?」



だったらどうして。


その言葉の答えに、俺は窮した。

駆け付けたところで俺にどうすることもできないのは事実。


仮に出来たとしても、それ即ち面倒事へと首を突っ込むことになるだけだ。



「知らん」



結局、それが答えだった。


そもそも、女性一人が痛めつけられる所をただ傍観しているのも癪だしな。

それが動機ってことでいいだろ?




「キョンは真面目くんだねぇ~」



春原が茶化すように笑い、




「ま、こいつは優等生だからな。課題の答えを写すのすら難しいほどに」



岡崎に皮肉られた。

すまんな、字が汚くて。




456 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
19:46:51.48 ID:u7GLEB/s0
それでだ。

俄かには信じ難いことになるんだろうが、

俺達が一階の校舎から飛び出した時には、既に片付いていたのだ。




「ありゃ?」



春原が素っ頓狂に首を捻る。

もちろん俺もだ。

校庭を走り回っていた人間達が砂地へと寝そべり、


バイクは乱暴にも倒れ伏してカラカラと車輪が回っている。



ただ一人。



縁を描く様に並び、崩れおちた狼藉者達の中心部で、


先程の女生徒が髪を掻き上げては腕を組み直していた。



グラウンドで体育に勤しんでいた生徒達も、隅に避難したまま唖然呆然。


いや、歓声を控えているといったほうが正しいのかもしれない。



「とにかく、行ってみよう」




春原が納得しなさそうに先導し始めたので、俺もその背中を追う。



459 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
19:56:12.58 ID:u7GLEB/s0
といっても、この状況下であの円の中心部へと立ち入る勇気はない。

俺にも恐怖心はもちろんある。


だがそれ以上に、全校中の視線を集めたあの中へ、

果たして俺が割入ってもいいのか。



答えはノーだ。


とのことで、情けなくも俺は他ギャラリーの中の一部として混じった。



「へっ、面白そうじゃないか」




春原が不敵に笑っては拳を鳴らし、その円の中へと歩みだした。

おお、流石は我が校切っての不良だ。

真面目くんの俺とは出来が違うな。


だが俺が感心し掛けたのも束の間、



「てめぇ……」



倒れ伏していた狼藉者の一部が起き上がった瞬間、


春原は両手をポケットに突っ込んでクールにUターンを決め込んでいた。



「お前って、毎度ながら期待を速攻で裏切ってくれるよな」




俺は嘆息した。

岡崎はというと、特に何の感情もないように無言のままであったが。



465 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
20:10:35.59 ID:u7GLEB/s0
対峙。

女生徒と、恐らくは狼藉者グループの頭領である体格のいい男。

互いに一体一、サシでの勝負だ。



「舐めやがって」




男が吐き捨てる。

女生徒は風で棚引く腰ほどまでの髪を払うと、凛とした声色で断言した。




「もうやめておけ。また痛い思いをするだけだぞ」



それによって俺の思考は、益々混迷の一途を辿っていった。


これ、普通に考えるとギャラリー、つまりは俺達が止めに入るべきだよな?


俺も一人では無理だが、少しでも人手があれば多勢に無勢という姑息な手段が選択可能となり、


無言の重圧なり、それを応用して僅かでも尽力できればとの思いで算段を立てていた訳なのだが。



しかしなんだこりゃ?




ギャラリー達の期待に満ちた眼差し、もとい、勝利を確信したような表情は。



ってことはやっぱりあれか?


あの女生徒がたった一人で、ここまでやってのけたってことになるのか?



かのように、俺がどうするもこうするも出来ないでいるなかで、


頭領の男が鋭い唸り声を上げたかと思うと、砂煙が渦巻くように地を蹴った。

475 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
20:29:47.41 ID:u7GLEB/s0
落雷だ。

遥か上空で発光した直後には、地へと到達しているあの現象。

例えるならば、あれに近かった。




男が向かってくるという意志を見せ、一歩目を踏み出した途端、

女生徒が一陣の疾風のように低い姿勢でその懐まで潜り込み、


溜めに溜めた脚力を以って飛翔――男の鳩尾に膝蹴りが炸裂していた。



電光に撃たれたように動きを止めた男の背後に女生徒が流れ込むと、


絡め取った腕を捻り上げ、妙な武術なのか足払いと共に投げ落とし、

グラウンドの上へ叩き付けられた男は大の字を描いて、動作と威勢を失ってしまった。




その立ち合いが幕を下ろした後で、俺は一連の音を認識できたのだ。



「今の、なに?」



俺に聞かれてもな。


これには流石の岡崎も反応を示したようで、



「へぇー」



という平坦な一句を詠みあげていた。


お前はもう少しでいいから、何かを述べるべきだと思うぞ。



482 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
20:50:07.66 ID:u7GLEB/s0
「こらー! 何やっとるんだー!」



今さらながらに登場した教師陣。

その、片が付くまで待っていたのでは?


と疑わざるを得ないほどのタイミングに俺は辟易としながらも、

狼藉者達が再び立ち上がり女生徒へ一挙に襲いかかる、


というまさかの事態に備えて、飛び出せる態勢だけは崩さなかった。

教師との共闘ならば、俺だってノミ程度の役には立てるはずだからな。




だがそれも憂慮だけと終わった。

もはや頭領が倒れ、こいつには敵わないと理解するなり、


士気の下がった狼藉者達は互いを抱え起こしてバイクへと跨って、



「いつまでも良いツラしていられると思うなよ」


捨て台詞を残して散っていった。

ようやくして、抑えられていた衝動が爆発したのだろう。



「智代さぁ~ん!」


ギャラリーからの歓声が、そこかしこで沸きあがった。遠く離れた校舎側からもだ。



「一体、何者なんだあいつは?」


俺がそう漏らしたのを、隣に居た観客の女子に拾い上げられた。



「誰って、二年生の坂上智代さんですよ、知らないんですか?


 一年のわたしでも知ってるくらい有名なのに。

 才色兼備、文武両道、おまけに人望も厚いという凄い方ですよ!


 この春から転校してきた人なんですけど、数日にして有名人になっちゃったんですからっ!」



熱の入った紹介ありがとう。


しかしこりゃあ、ひょっとすると女生徒から色んな意味で慕われてそうだな。



488 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
21:09:28.31 ID:u7GLEB/s0
事なきを得たのであれば、俺がここに居る理由もない。

騒ぎ出した生徒達と、それを抑え込む教師陣。

そして戦場から悠々と帰ってくる坂上。




それらを認めたところで、俺はこの場からの退散を二人に向け提案した。

もうすぐ授業も始まるしな。



「ま、そうだな」




岡崎も生返事で踵を返したが、

春原だけは依然、坂上を睨みつけていた。

俺は訊ねる。



「どうしたんだ?」




けっ、と春原が毒づいてみせた。



「気に入らないね、ああいうの」


「お前はターンは上手いが、坂上とは実力が違いすぎるからな」

「おいキョン、僕のことを何か勘違いしていないかい?


 巷では眠れる獅子、春原陽平と噂されているけど、実はこの僕のことなんだぜ?」



通り名で本名を語ってどうする。




「へっ、今に覚えてろよ」



どうやら、春原の中に眠っていた要らぬ部分を刺激してしまったらしい。



493 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
21:18:23.19 ID:u7GLEB/s0
二校時目に奇跡が起きた。

その退屈な授業中、俺の陰でせっせと課題の複写に励む岡崎と、

腕組みし、しかめっ面一辺倒で微動だにしない春原。




それぞれが授業中に起きていたのだ!



……って、これくらいで感動しそうになってどうするよ、俺。


どことなく授業を仕切っている教師の顔にも満足感が窺えるものの、

残念、それは貴方の思惑違いですよ。


俺が思うに、要らんことばかりを考えている人間どもですからね、こいつらは。




まあ、俺も先程の出来事が頭の中を駆け巡ってしまい集中できないんだから、

こいつらと全く以って同じなんですが。




そして俺の勘繰り通り、二校時目の休み時間には春原が拳を振りあげたのだ。



497 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
21:31:29.74 ID:u7GLEB/s0
「わかったぜ、岡崎にキョン!」



何がだよ?



「トリックだよ、トリック」



急に何を言いだすんだ、お前は?




「女が男に勝てるわけないでしょうが。だったら答えは簡単だ。

 あれは智代が人気取りの為にバイク野郎どもと示し合せていた、見世物なのさ!」




早くも智代という下の名前で呼ぶ春原の馴れなれしさが、微妙に煩い。

現に、岡崎もさも面倒そうに課題を写す手を止め、




「黙ってろ、俺はいま勉強中なんだからよ」



顔に似合わないどころか漫才のネタなのかと揶揄したくなるような言を、


まあともかく、そういう主旨の冷たい返答をしやがったわけだ。

となると今度は俺に絡む絡む。


妙に磁力を高めたせいで、向き合わせてくっつけると取れなくなる強化磁石のように、


トリックだのなんだのと、俺が顔を逸らす方向へ回り込んでは力説一色。



なんという面倒すぎる性格をしているのだ、こいつは。


休み時間だというのに却って疲れてどうするよ。



513 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
21:48:24.63 ID:u7GLEB/s0
三校時目の授業中にまたもや唸っていた春原は、

チャイムが響いて自由が利くようになると勢いよく立ちあがった。


すると俺に嫌な予感が走るのだ。



「行くぜ、二人とも!」

春原に手を差し出される。



「おう、行ってこい」


「帰りにコーヒー牛乳な、パックのやつ」

俺、岡崎の順で送辞を与えた。



「冷たすぎるだろお前等!」



いい返し方だ。


そういう所は割と好きだぜ。



「ふざけるなよ、僕達は一挙両得だろ!」




多分だとは思うが、一蓮托生無と言いたかったんだろうな。

俺に言い換えさせるなら、一髪千鈞を引きそうな悪寒を感じてはいるが。




「ねぇ~ねぇ~岡崎ぃ~キョン~」



あーもう、うざったい奴だな。




「よし、春原を頼んだぞ。俺も春原に付き合ってやりたいのは山々だけど、

 どうにも課題で手が離せないので仕方がなくてな……」




おい岡崎、なんだその尤もな顔と言い訳は。

なあ岡崎、ちょっ、春原待て、おい引っ張るな――!



529 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
22:03:29.71 ID:u7GLEB/s0
「じゃあなー、お前等ー」



岡崎が完全に投げやがった。



「って、お前は来ないのかよ!」




一応ながら春原もツッコんでいるが、既に同行の獲物として俺は捕獲されているので、

その顔には嬉しさが一杯に拡がっている。




くそっ、なぜこうなる……!



俺の右手が教室扉から引っぺがされ、最後に目撃できた室内の光景は、


トランプらしきものを携えて岡崎の側へと歩み寄っていく、藤林の姿だった。



春原の奴は俺のネクタイを掴み、


まるで鵜飼のような強引さでぐいぐいと引っ張り続けるので、

俺は抗いようもないまま校舎内で通り過ぎていく人々の視線を、存分に集めてしまった。




しかしだな、今さらながらではあるが。

春原が腕っ節を誇っていたのは、強ち冗談でもないらしい。


こいつは俺より数センチ程度は身長が低いのだ。

体格もガッシリというわけではなく、むしろスリムな方であろう。


なのに俺はこういう現状なわけだ。

やはりスポーツ特待生になれたほど長い間、培ってきたアドバンテージは、


部活動を辞めてしまったあととなっても簡単には立ち消えないようだ。



「智代ちゃん何処?」




春原は、二年の生徒達を捕まえて所在を尋ね、

どうやら彼女がB組であるらしいことを突き止めたようで――



538 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
22:14:50.48 ID:u7GLEB/s0
「なんだお前達、わたしに何か用か?」



春原の金髪を目にしてだろう。

びくと怯えた案内役、B組の男子生徒を春原が解放すると、


代わりに目的となる人物が御登場なすったのだ。

ちなみに案内役には俺から謝っておくと共に、


春原という奴の駄目駄目な人間性を吹き込んでおいた。



「ちょっと面を貸してもらうぜ」




そうこうしているうち、春原が悪役っぷりを如何なく発揮し始める。



「そんな暇はない」



智代、一蹴。




「残念だったな春原。帰ろうぜ、坂上も忙しいところ済まなかった」



俺は春原の肩に手を置いてまっこと遺憾の意を演出してはみたが、


春原のやつも「ハイそうですか」とはいかなかったのだ。



「人気取りも大変そうだな、智代ちゃんよ?」




その一言で身を翻した智代がさらに反回転を決め、



「どういう意味だ?」



艶のある髪をさらりと揺らした。


無論、それに伴った鋭い眼光もだ。



545 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
22:28:39.41 ID:u7GLEB/s0
なんでこうなっちまうのかね。

人は争わなくては生きていけないのか。

嗚呼、無常。




などと俺が、使い古された演出で悲観に浸りたくなるほどに、この場の空気は最悪だ。


とはいえ、火が点いた春原の奴はもう退いてくれそうにはない。

だったらば、春原の足りない言葉で下手に話が拗れるよりも、


俺が代わりに単刀直入として話をつけるのが得策である。



「手を煩わせて申し訳ないとは思っている。それで実はな――」




春原のトリック論やら、坂上に喧嘩を吹っ掛けようとしている旨、

延いてはこいつが馬鹿であるということを掻い摘んで説明していった。




「仕方のない奴だな」

「その通り、こいつは仕方のない奴なんだよ」



智代の呆れに俺も乗ると、




「ちょっと、キョンはどっちの味方なんですかねぇ!?」



と来たもんだ。

俺は言ってやったね。




「女性の味方」

自分で言うのもなんだが、今の俺って割かし様になっていないか?



「お前も仕方の無い奴だな」




しかし智代は嘆息し、我に返った俺は眉間を必死に押さえるのだった。



557 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
22:44:38.50 ID:u7GLEB/s0
人気のない場所へと移動、となれば旧校舎方面だ。

実際、望みどおり人気もないようだしな。




「あと5分程度しかないんだけど、大丈夫か?」



ガラリと空いた廊下で対峙した二人に、俺は問うた。



「問題無い」




智代は自信たっぷりだ。

いや、自信という意志すら見せずに、「いま、微風が吹いたかな?」程度の変化具合。


元スポーツ特待生の金髪に絡まれているというのにこの表情なのだ。

こいつは鋼の心臓でも持っているのか?




「僕も問題ないね。降参するなら今のうちだよ?」



「こちらも意気揚揚、心身充溢。

 女性相手にその心意気、男として最低の人間だな。 」



「うるさいよキョン」

「悪かったな」




智代は髪を纏めるべくの黒色カチューシャの位置が気に入らないのか、

俺達のやりとりなど興味なさげにお色直し中であり、やがて。




「やるのは構わない。しかし面倒事にするのはやめて欲しい。

 言い訳の為にも、お前の方から掛かってきてくれ。証言は頼んだぞ、そこのお前?」




坂上の眼光を俺が受け止めて頷き、それが合図となったわけだ。



571 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
23:03:49.13 ID:u7GLEB/s0
春原とは、勝負事に措いては一切手を抜かない奴らしい。

俺の方を向いて気が逸れていたであろう坂上を認めるなり、


弓を引くが如く、右拳を引き絞りながら駆け寄って行った。

まあその際、



「隙ありぃ~~~!」




などと意味もなく叫んだことで、隙を衝いた意味がなくなったわけではあるが。

ともかく春原の拳は容赦なく坂上の顔面めがけて邁進していき、


俺ですらその容赦の無さに寒気を覚え始めた頃合いのこと。



坂上が旋風を巻いた。




春原の拳を自身の掌で掴むように受け流して軌道を逸らし、くるりと一回転。


相撲でいう引き落としに近い技によってバランスを崩した春原が前へとのめり込み、

身長差があるはずの坂上が春原の背中をとる形。




間断なく、そして一切の無駄な動作もなく、飛び上がっていた坂上が、


竜巻のように中空で転回し、鎌のようにしなった踵を春原の首筋に叩き落としたのだ。




奏でられたのは表現するのも嫌になるような、鈍く重い音だった。



それから二歩、三歩……恐らく十歩程度だろうか。


春原が妙な体勢で有らぬ方向へ走って行ったかと思うと、

足を滑らせた子山羊のように頭から転げ、そのままでんぐり返って地面へと仰向けに倒れ伏した。




ちょっと待てよおい、これってまさかとは思うが……



「ヤっちまったんじゃないのか?」



576 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
23:20:47.82 ID:u7GLEB/s0
「大丈夫だ。手加減はしてあるし急所も外してある」

「しかし見ての通り、ピクリともしないぞ?」


「当然だ。起きあがって粘られでもしたら、授業に遅れる」



数分立てないようにしただけだ、との診察結果を申し渡された。


しかし相変わらず華麗な身のこなしだな。

先手をとった春原の攻撃を防ぎ、そして崩し、さらに反撃。



この間、僅か三秒。




いやいやこれは比喩などではなく、

間近で見届けていた俺ですら状況がよく掴めなかったのだ。


実際、「くるりと一回転」が本当に一回転だったかと四択で問われれば、

俺は解答に躊躇し、オーディエンスなりテレフォンなりを求めることだろう。




「では、わたしは失礼する。

 お前からもこいつに良く言い聞かせておいて欲しい」

「オーケイ、手間取らせて悪かった。


 暴力事件として提訴された折には、この俺が証言台に立つから安心しておいてくれ」




ずっと無表情に近かった坂上だったが、ここにきて控え目にも頬を綻ばせた。



「面白い奴だな、お前は」


「これでも普通であるように心がけているんだけどな」



やがて俺は、風のように去って行く坂上の背を見送っていた。


切れの良い眦、凛とした声。正に清く正しく美しくという評語の具現化形。

あくまでそれは表向きであり、その実は誠に猟奇的。




やれやれ、またクセのありそうな奴と出合っちまったぜ。



581 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
23:31:51.44 ID:u7GLEB/s0
「おい、いい加減に起きろ」



床でオネンネでしている春原のモミアゲを引っ張ると、身を捩らせて反抗の意を示したので、


どうやら春原にはまだ命が宿っているのだと、少しばかりではあるが安堵を覚えた。



で、またもやだ。




「あー……鳴っちまったじゃねぇか畜生……」



四校時目、授業開始のチャイムってわけだ。


こうなると教室へ戻り辛くなることは、前日学んだばかりだというのに。



しまったもんだ。


温情を捨て、春原を近くのロッカーにでも隠匿し、俺だけでも先に戻るべきだった。



「はぁ」



何度目だろうな、俺のため息も。


ここ三日だけでひと月分を使い切りそうだ。



582 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
23:33:50.13 ID:zg7Aet9y0
【レス抽出】

対象スレ: キョン「ここが私立光坂高等学校か…」

キーワード: やれやれ



抽出レス数:7




大丈夫 まだまだだ



588 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
23:50:48.65 ID:u7GLEB/s0
春原が目を覚ましたのは、それから優に十分後のことだ。

結局、俺はこいつを置き去りにする事が出来ず、


取り返しが付かなくなり始めた時間帯まで看病してしまった。

坂上が加減はしたと言えど、もしもの場合も考えられる。


容体が急変して息を引き取ったりなんかすれば、

俺だって寝覚めが悪いもんだし坂上にしたって気の毒なものだ。




そうだ、あんなに優等生で生徒の鏡のように慕われている人間が、

こんな一方的な不幸によって災禍の中へと呑み込まれるなんて間違っている。




ああ、間違っているさ。

自分が原因ならまだしも、一方的で避けられない不幸なんてな。



「どうしたんだ?」




春原はようやくして上体を起こせるようになったらしく、

今一つ優れない声と同時に首を捻ってみせた。



「別に何も」


「なんか怖い顔してなかった?」

「お前の所為で授業に出遅れちまったからだ」



ほどなくして春原は立ち上がると、こう言いやがった。




「油断してたぜ」



どこをどうみりゃそんな口が利けるんだよお前は。

女相手に不意打ちを狙っていたくせに。



591 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/11(木)
00:00:13.25 ID:aPAdbmbY0
「それで、どうするんだい?」

「サボる」



思わず即答してやったね。

こうなりゃもう、ヤケってやつだ。


それに春原と二人で教室に戻ったりなんかすれば、

必然的にその理由を問われ、春原があらぬこと――坂上との決闘だが、


を滑らせてしまう恐れがある。



忌むべき事態は、避けねばなるまい。

との考えによる俺の機転だったわけだ、先の一言はな。




「お前もだいぶ、板についてきたんじゃないのか?」

「なにが?」

「僕達の世界で生きる術がさ」




笑い掛けるな気色悪い。



「そうカリカリすんなって、いいじゃないか授業くらいさ」

「どこがだよ」


「偶にはパァーっと気晴らしするもんだぜ、真・面・目・くん?」



うぜぇ。



「で、どこで時間を潰そうかねぇ?」


「だったら俺は、昔話シリーズでも読破してやるよ」

「お、いいねぇ!」



着いてくるのかよ。



598 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/11(木)
00:13:29.34 ID:aPAdbmbY0
じゃあ移動するか、と俺達が踏み出そうとした時だった。



ガタン!

という物音が聴こえたのは。



「なんだ今の音?


 結構近かったみたいだけど」



春原が辺りを見回す。

俺も同様にしてはみたが、探るまでもなく廊下に人気など皆無だ。


というよりだな、



「この中から聴こえなかったか?」



この中というのはつまり、空き教室のことである。


文字通り使われなくなってしまった教室のことだが、

椅子や机などはそのまま、俺達のクラス同様に並べられているはずだ。




摺りガラスで仕切られた窓。

そして閉め切られた出入り口。



いずれにせよ、ここからでは窺えない。


室内に何かが、あるのだろうか?



611 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/11(木)
00:27:33.64 ID:aPAdbmbY0
鍵は開いていた。

そりゃそうさ、昨日俺が岡崎を捜索しにここへ来た際にも空いていたんだからな。


ほどなく、先陣を切った春原の手によって、滞りもなく扉は開かれたわけだ。



「んー……特に何もないようだけど」

「入口を塞ぐな」


「おう、ごめんよ」



春原を追いやってから俺も室内への進入を果たしたが、結局はこう言ったのだ。



「そうだな、何もない」




昼時の温かな光が、やんわりとした日溜りの空間を創り上げていただけだった。


緩やかに熱せられた空気と、年季の入った室内用具が醸し出す独特の懐かしい臭気。


それらすべてが見事に調和し、あまりにも相俟って俺へと訴えかけてきたため、



「この教室って昼寝するには良さそうだよな」




なんて一端にも口走ってしまった。

今のは無意識下での失言というものだ。

春原なんかに影響されるな、しっかりせねばならんだろうよ。




「うーん、あと何かがありそうだとすれば……」



頭を掻きつつの春原が教室後ろ側へと歩み寄り、




「ここくらいかねぇ?」



ピンと掃除用具入れを指差し、俺に疑問顔を向けてきた。



613 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/11(木)
00:37:28.30 ID:aPAdbmbY0
「なんでやねん」



俺は関西弁でツッコんでしまった。

だって考えてもみろよ、




「そんなところに何があるっていうんだよ」

「いやぁ、案外そうでもないかもしれないぜ?」



不意に、春原の顔色が一変した。


掃除用具入れのノブに両手をあて、

そのノブ位置が低い為にへっぴり腰という何とも情けない姿ではあるが、


横向きなまま俺へと向けられた春原の表情は、

今まで俺が目にしたことがないほどに真剣さで塗り固められていた。



「どういう意味だ」




情けないことではあるが、思わず俺もその表情に誘われちまったね。

すると春原は低い声を以って呟き、続けざまに語り出したのだ。




「この学校に伝わる伝説――」





――人食いロッカー。



618 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/11(木)
00:52:28.05 ID:aPAdbmbY0
「その昔ね、この学校に一人の生徒がいたのよ。

 でね、それでね、その子はとってもお利口で優秀なんだけど、どうにも好き嫌いが多くってさ。


 あ、好き嫌いってのは食べ物のことだからね。

 鯛焼きとかイチゴサンデーとか牛丼とかアイスとか―― 」



「なんでそう例えに向かなそうな食べ物ばかりを挙げるんだ?」



「うるさいよキョン。

 せっかくノッてきたんだから、黙って聴いていてくれよ。」



「すまん」



「とにかく、給食だよ。

 困るのはそう、皆と食べる給食の時間なんだよ。

 選べないからね、自分じゃ選べないからね?

 運ばれた奴は食べなきゃ駄目じゃん、残したらアレだよ、干されるよ?

 その子は優秀な生徒だって思われてるのに掌一転、カラッカラのペラッペラに。


 それはいけない。それは嫌だ。

 当然、思った訳よ。」



「ここは高校だろ、なんで給食があるんだ?」




「うるさい。三分も掛からないんだから口を閉じていてくれよ。

 それともあれですかい?

 アンタは常に喋ってないと溺死しちまう鮫ですか? 

 え、魚類なんですか、えぇ!?」



「すまない、俺が悪かった。もう喋らないから気のすむまでやってくれ」





621 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/11(木)
01:02:18.15 ID:aPAdbmbY0
「うぉっほん。

 とにかく、その子は駄目だったんだよ。

 嫌いな物を食べた途端、全身がブツブツに腫れ上がって他界しちゃうから。」




「そっちの――」



「え、なに?

 いまなにか言おうとしたよね?

 なに急に口を閉じちゃったの?

 多分だけど、「そっちのほうがホラーだろ」なんて言おうとしなかった?

 ねぇ……聴いてた、僕の話?」



次、喋ったら全身にブツブツが出来るまで爪楊枝で突っつくからね。




「……でね、その子はクラスメイトの眼を盗んではロッカーに嫌いな物を捨て始めたんだよ。


 そんなこんなな日々が続いていって、ある日のことさ。

 その子は教室に遅くまで残ってて、気が付きゃ一人。

 辺りには誰もいなく、日は傾いて暗く、なんとぉ~も嫌ぁ~な雰囲気。」



 するってぇとどうしたことかい?



 トントントントンン……

 トントントントンン……



 聴こえるじゃあないか。

 あれぇ~おかしいなぁ~どうしたのかなぁ~……

 思ったわけよ。

 

 なぁ~んか教室の後ろのほうが煩いなぁ~って。

 気になっちゃったわけよ。 」



623 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/11(木)
01:11:42.79 ID:aPAdbmbY0
「ロッカー。

 普段は掃除用具が入っている場所。



 そこがどうにも怪しい。

 どう考えたって他に物音がして見えない場所はないんだから、

 そこしかないんだって確信してさ、でね、それで。



 トントントントン……



 鳴ってる場所へ向けて、



 コツコツコツコツ……



 歩いてったわけ。

 耳を当ててみると、やっぱりそのなかから音がしてる。

 こりゃ間違いない。

 今まで自分が嫌いな物の捨ててきたこの場所から、

 なにか物音がしてる……。



 その子ね、気付いちゃいなかったんだ。

 食べ物を与えてたうちにロッカーが味を覚えちゃってたことに。

 色んな物を食べるうち、もっと別の新しいものを食べたいなって、そうなってたことに。




 でもそんなことを知らなかったからさ、その子。

 ロッカーに両手を据えると―― 」

626 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/11(木)
01:22:40.70 ID:aPAdbmbY0
「わぁぁぁぁああああああああ!!」



うわっ、ロッカーからなんか出て来た。



「ぎゃぁぁあああああああああ!!」




タックルを受けた春原、絶叫。

思わず俺も一歩後ずさっちまった。

早くも春原は腰を抜かして床にヘタリ込んでしまっており……




その頭を叩く、叩く。



ロッカーの中から出て来た奴が、貝を割るラッコのように、

春原の金髪をコッツコッツ、コッツコッツ。


何か非常に硬い物を手にした両手で万遍なく、

そりゃもう春原の頭をかち割ればごちそうが出てくると云わんばかりにだ。




「食べられてしまいますっ、

 風子、自らロッカーのなかに誘い込まれてましたからっ!」



女生徒だった。


相変わらず読解不明な言葉を喚きながら、しかしその手は一向に休めない。

あ、もしかするとこのショックで春原の頭が良くなる可能性もあるな。


俺は少し、傍観していようか。



「助けて、どうかお助けを!

 キュウリを捨てた僕が悪かった、だから食べないでくれぇ~!」




お前、捨てたことがあるのかよ。



632 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/11(木)
01:33:46.18 ID:aPAdbmbY0
無限ループ。

放っておけば何時まで経っても終わらない拷問。

流石に俺も、春原が気の毒に思えてきていた。


先程、坂上に受けた首への一撃と重なって、致命傷へ至る可能性もあるからだ。

なので妙に小柄な女生徒の手に握られていた、謎の凶器を抜き取り、


そのあとで訊ねた。



「なにをやっているんだ?」



無反応。

というより、俺が視界に入っていないらしい。




「おい、もう凶器はないんだからその手はいい加減に止めないか?」



口で言っても駄目だろうと踏んだので、今度は両手を拘束し、


女生徒と目線の高さを合わせてから問い掛けた。

この目線を合わせるというのは、一ノ瀬の時に学ばされた技術だがな。




「モミアゲお化けですっ!」



なんだこいつは。

イヤイヤと両手を振りほどき、さらに背中に手を回したかと思うと――




目線を合わせるべく姿勢を低くしていた俺の頭上から、

新たに抜きだされた凶器第二号が振り下ろされていた。



639 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/11(木)
01:45:12.14 ID:aPAdbmbY0
火花が散った。



同時に、世界中の電灯が落とされたかのように視界が暗がりに落ち始め、


今まで感じられていた音や、自分自身の体感覚が、次第に遠いものへと変わっていった。



ゴツリゴツリと、容赦なく何度も襲い来る衝撃。


でもなんだかそれが心地良い。



これを払いのけるのが一般論であり常識だとしても、


自分がそれを望むのならば、それはそれで自身に措いては正論なのだ。

故にこのままでいい。



それになんだか体が重いし、


仮に抗おうとしたところで手足一本を動かすのすら億劫というもの。



いいじゃん、これで。

バイバイ、皆。




「ってキョン! しっかりしろよ!」



誰だい君は?

もう、僕のことは放っておいてくれよ。




「なんか一人称が変わっちゃってるんですけどー!」



642 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/11(木)
01:55:54.74 ID:aPAdbmbY0
数分後。



「アンタ、打たれ弱すぎでしょ?」



床に胡坐をかいて座る春原が、やや心配そうに言った。




「俺は造りが普通だからな。むしろ、お前の方が丈夫すぎんだよ」



俺も足を崩して床にヘタっている。


まったく、まだ頭がズキズキしやがるぜ。



「それで、お前はなんなんだ?」




春原が話を振ったのは、先ほどロッカーの中にいた小さな女生徒へ向けてである。


今は落ち着きを取り戻したようで、床に正座し、それによって反省の色を示しているようだ。



「最悪ですっ!」




全然違った、ちっとも反省してやがらねぇ。

こりゃあ人を凶器で殴る危険性について、長々と小言を垂れねばなるまい。



646 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/11(木)
02:11:01.33 ID:aPAdbmbY0
俺が十七年近くの間に溜め込んできた知識、経験、失敗、美談。

それらと共に感じてきた心境や、明日を生きる方法論。


さらには持論と一般論を御多分に混ぜ込み、展開させ、

最終的に自己PRを加えたことで、俺の話は終章を迎えた。




「すげぇ、すげぇよキョン……」



お前が感心してどうする。

肝心の女生徒はというと、




「何が言いたいのか全然わかりませんでしたが、取りあえずありがとうございました」



その容姿通りの子供染みた声で、


これまた生意気にもそっぽを向いてツンとした猫のような風体を以って、

心が微塵も篭っていない謝意を述べてくれやがった。

感心できんな、




「少しくらい反省したらどうだ。

 少なくとも、頭を下げるべきなのがどちらかという事くらい判断が付くだろう?」


「風子は、怖い話を聴かせてきた、こっちの変な頭が悪いと思います」



ピッ、と春原を指差してみせる。




「まあ、そいつが悪い奴であることは坂上の件で明白ではあるが、」

「うるさいよ!」


「ともかく、俺は一般人だ。ならどうするべきだと思うか?」



風子が悩む。

別に悩むほどのことじゃないと思うんだがな。




652 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/11(木)
02:25:59.96 ID:aPAdbmbY0
やがて女生徒は肩を竦め、

小さな体をより縮めてから俯き加減に囁いた。



「ごめんなさい」




口を尖らせての、聴きとるのにも苦労する弱々しさ。



「よし、許す」




俺は特にあれこれとは言わず、それを認めることにした。

こいつがどんな奴なのか知り得てはいないが、


謝罪するだけににこれだけの時間を要したことから察すれば、

これがこいつなりの精一杯であることは明白だ。


だったら、とやかく言うのも気の毒というもの。



それに体格的に、そして性格的に見ても、


中学に入りたてである俺の妹並に幼いので、強く責めるのも気が引ける。

俺は妹思いだって言っただろ?




ともかく、俺は女生徒の頭を撫でてみた。

そうしたほうが良いように思えたからだ。



「軽々しく触らないでください」




そして手厳しい反撃を受けた。



656 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/11(木)
02:41:24.39 ID:aPAdbmbY0
ようやく必要なことが済んだので、次の段階へと移ることにする。

いや、考えてもみればこれを初めに訊ねるべきだったのだろうが、


どうもこの学校では時間の枠に対してフリーダムな人間が俺を含めて多すぎたため、

一般常識からくる感覚が麻痺していたのかもしれない。




かくして、俺は訊ねた。



「どうしてお前は、授業中だというのにこんな場所に居るんだ?」

「それは風子のほうが訊きたいです。


 どうしてあなた達は、授業中だというのにここにいるんですか?」



質問を質問で返すなよ。

まあいい、先攻も後攻も変わるまいて。


と考え、俺は春原を指差してから答えた。



「俺はこいつに巻き込まれて、成るべくしてなっちまったんだよ」


「やっぱり、変な頭の人は悪い人です」

「そうだ、その認識は正しいぞ」



春原が割って入る。




「アンタら二人して僕に怨みでもあるんですかねぇ!?」

「俺はあるぞ。転入後三日目にして、晴れて二回目のサボりを果たしたんだからな」


「風子もあります。怖い話を聴かされました」



春原は悶絶し、それきり黙りこくった。



658 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/11(木)
03:01:52.64 ID:aPAdbmbY0
「それでもう一度訊くが、どうして授業中に?」



女生徒は瞳を右往左往させ、膝上に重ねた両手の指が落ち着かなく蠢き、


ありありと動揺の色を振り撒いたあとで一言。



「教室を間違えました」

「お前、その言い訳を考える為だけに数秒も時間を使ったのか?」


「酷い人です。風子のことを信用しないなんて、酷すぎます」

「おいおい、ここは旧校舎だぞ?


 どこの世界を探せば、自分の教室を探し間違えた末に、校舎ごと間違える奴がいるんだよ」

「ここに居ます」




女生徒が、今度は自分を指差した。

いや、それを認めれば言い訳は真となれど、代わりに多大な犠牲を払うことになると思うんだが。




660 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/11(木)
03:11:20.91 ID:aPAdbmbY0
しかし、それもこの際は放っておこう。



「で、なんだこれは?」



俺は女生徒が携えていた凶器、もとい星を拾い上げた。


形が星なだけでありその造りは木製で、所々が不格好で歪になっており、

表面には彫刻刀などで削り取った際に出来る独特の模様が走っている。


などと俺が観察に耽っていたところ、女生徒が俺の手から星を奪い取り、

同じくしてその表情が喜色満面に一転した。



「ヒトデですっ」




……はい?



「これは風子がヒトデへの溢れるような想いをこめて彫りました。


 ヒトデは良いものなんです、とってもとっても良い物でそれはもう……」



おい、お前大丈夫か?


おーい、笑顔のまま固まっちまってぞー?



「反応ないね」



春原が呟いたので俺は身を乗り出し、


開けっ放しとなっている女生徒の眼前で指を振ってみるも、

その瞳が一切つられることはなかった。




「こりゃ、遠い世界へ旅立っちまったようだな」



にしてもだ。結構怖いんだぞ、制止した笑顔って。


無駄にいい笑顔なだけに余計にな。



665 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/11(木)
03:22:18.33 ID:aPAdbmbY0
どうしたものかと思案したのだが、

これといって良い解決法も思い浮かばなかった為に、

俺達は最終手段を用いることとした。




「待とう」

「おう」



春原も同意すると立ち上がり、

「じゃあ、キョンに任せるよ」

と教室から出ていく。




「ちょっと待てよ、お前はどうする気だ?」

「いや、喉が乾いちゃったしさ、ジュースでもと思って」

「なんだ気が利くじゃないか」


「なんですか、その僕が奢らなきゃならないような空気は!」

「ジョークだから怒るなって。


 後でちゃんと払うから代わりに買ってきてくれ、見張りはやっておくから」



へーい、と残して春原が出ていったことで、


空き教室内には俺と、彫刻と化した女生徒の二人だけとなった。

やることもないので、なんとなくその表情を窺ってみる。




……この上なく満面な笑みが、そこに張り付いていた。



おい、冗談抜きに恐いぞ。


生きた人間が物音一つ起こさずに、笑顔で固まっているんだからな。

どこかの国の門番じゃああるまいし、冗談だとしたらそろそろ辞めて欲しい。




切実に願う。



671 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/11(木)
03:40:08.33 ID:aPAdbmbY0
「ただいまー。

 優しい僕は、その子の分も買ってきてやったぜ」



春原が戻ってきたというのに依然、進展なし。


にしてもなんだよこの紙パックジュースは。

どろり濃厚なんて、口にするには少しばかり躊躇しそうな文字が書いてあるではないか。




「まだ固まってんの、この子?

 いっそ、こいつで叩けば目を覚ますんじゃない?」




仕返しとばかりに春原が”ヒトデ”を持ち上げたので、

俺はストローを突き刺す動作を中断するほど慌て、その手を制止させた。




「そう慌てるなって。僕だって女の子相手に手はあげないさ」

「ほんの小一時間前、坂上に全力で向かっていったお前が何をいうか」


「勘違いしないでほしいな、あの時の僕は全力じゃなかったんだぞ。

 それにアレは女とは思えないくらい強いのは確かだし、


 女だと思って僕が油断さえしなければ……」



春原が何かに思い当たったらしい。

念仏のように、




「女じゃない、女じゃない、女じゃない……」



何度も繰り返し、ようやく終結点についたのか叫んだ。




「そうか、そうだったのか!」



謎が解けたらしいが、俺は面倒だったので訊ねないことにしておいた。


うん、意外といけるな、このジュース。



675 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/11(木)
04:00:53.41 ID:aPAdbmbY0
俺がジュースを飲み終えるほど時間が過ぎても、状況は全く以って好転せず。

また、春原が見せた珍しき施しによって用意された女生徒ぶんのジュースも、


外気温との差で汗をかき始めていた。



でだ。



魔が差した、というべきか。


ふと、俺はその女生徒用のジュースで何か出来ないか――いや、違うぜ。

その紙パックジュースの液体を、ストローを介して鼻の中へと注入し、


延いては鼻から口、口から喉、喉から胃へと流し込んでみたい、という衝動に襲われた。



テレビなどで目にしたことはあるが、


実際に鼻から飲料物を摂取できるのかと問われれば、それは怪しいものだ。

もしかすると、アレはテレビが創り上げた都市伝説なのかもしれないからな。


そうだ、そうかもしれない。

つまりは今ここで俺が女生徒とジュースを用いた実験を行うのは後学の為でもあり、


今後の発展に向けての偉大なる一歩ともなるはずである。



小さな一歩。

しかし偉大な一歩。



俺は、やるぜ?




676 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/11(木)
04:02:41.41 ID:aPAdbmbY0
「待てよキョン、それはその子の分だぞ?

 僕って結構怖がらせちまったみたいだし、これで水に流して貰おうって思ってんだからよ」


「まあまあ、考えてもみろよ。

 このままこいつが目覚めるまで待ってちゃ、折角のジュースが温くなっちまう。


 やっぱり美味いものは最高のコンディションで味わうべきだろ?」

「えっと、そりゃ言われてみればそうかもしれないな……」


「なら、鮮度が落ちる前にだ。要するにいますぐ飲ませてあげるのが道理ってもんだろう」

「なーるほど、お前って頭いいよな」




へへっ、春原程度を丸めこむのは余裕だぜ。



「ちょっと待てよキョン、なんで鼻からなんだ?」


「呼吸が停止したり重症な人間には、鼻からチューブを通して薬液なりを打つだろ?


 これはアレの応用でな、こいつの停止状態ではこうするしかないんだよ」

「やっぱ頭いいな、お前」



ちょろいもんだぜ。




679 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/11(木)
04:10:39.24 ID:aPAdbmbY0
セット完了。

深々と突き刺さったストローが、その時を待つ俺の期待で震えていた。

あとは、この紙パックを握るだけ。


ほんのちょっとだけでいい。

あと少し俺の右手に力を込めれば、それで結果へと導かれる。



高みへと登れる!




「覚悟はいいか、春原?」

「なんの覚悟だよ」

「よし、良いらしいな」

「僕、何も言ってないんすけど」




助手の了解も得て、GOサインも獲得。

さあいくぜ。



「喰らえっ!」



俺はひと思いに紙パックを握りしめた。




683 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/11(木)
04:25:46.82 ID:aPAdbmbY0
「あうっ!」



ああっ、こいつ動き出しやがった!

もう少しだったのに。



「なんですか、なんなんですか!?


 なんだか鼻がムズムズしてますっ!」



小振りに咳を一つ、女生徒は取り出したハンカチで入念に鼻周りを拭いていた。


俺はその様子を観察し、絶望感に打ち拉がられながらも一縷の想いを抱いて訊ねてみる。



「飲めたか?」

「……なんのことですか?」




くそっ、俺の負けだ!

俺は高みへとは登れなかったんだ。

結局は岸壁へと弾かれ、叩き落とされた若輩の一身。


所詮は凡人、その域を超えることはできなかったのだ。



「お前、喰らえとか言わなかったか?」



春原が不信感露わにしていた。




「気のせいだ」

「そうだったのか?

 なんかお前、時々人が変わったようになるから、見てて怖く思うことがあるんだけど」


「これからは気を付けておく。

 ほれ、春原からの差し入れだ。これで水に流してほしいとのことだ」




俺が女生徒にジュースを手渡すと、女生徒は眉を潜めつつも受け取ってくれたようだった。



685 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/11(木)
04:46:31.44 ID:aPAdbmbY0
さてと。

一通りのことを話し終わってはみたが、そういえばまだだったな。



「僕は春原陽平、こっちはキョンな」




お前、また勝手に人の仇名を広めやがって。

まあいい、今さらどうこう言う気力すらないさ。




「キョン……外国の方でしたかっ!」

「違うに決まってるだろ」

「変な名前です! 変な名前の人ですっ!」


「復唱しなくとも伝わっている。落ち着け」



すぐにヒートアップしてしまいそうな女生徒を宥め、

それから俺は相手の名前を求めた。


とはいえ、さっきから何度も口にしている一人称が恐らく、名前であろうがな。



「わかりました」




と、何故か気合いを入れるように両手をぎゅっと握ってみせ、


立ち上がってはほどよく離れた位置まで歩いていき、くるりとスカートを翻してピタリと向き直った。

それに連れ、毛量が多く長い髪が揺れ、


背中ほどで流れを一つに纏めた大きく特徴的なリボンが、ふわりと風に舞った。




女生徒は意外にも思えるほどに行儀良く、両手を前で重ねてからハキハキと述べた。




「伊吹、風子です。風の子と書いてフウコです。気軽に風子と呼んでくださいっ!」




ペコリと精一杯に思えるほに頭を下げ、髪が遊ぶほどの勢いで元に直ると、

やはり高校生には思えないほどに幼い顔で、しかし可愛らしく笑った。




692 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/11(木)
05:02:22.19 ID:aPAdbmbY0
風の子か。

言われてみりゃあ、正にイメージ通りだな。



「なんか、今の部分だけやけにしっかりしてたように思えたんだけど」




春原がぼやいた。俺も同感だ。

所謂、やればできるってタイプなのだろうか。

って、なんだかフーフー言っていようだが大丈夫か?




「緊張しました」

「どうしてだよ」



問いかけた春原に、風子が平らな胸を撫で下ろしながら返した。




「緊張するんだから緊張するんです。だから仕方がないんです」

「さっきまで僕達と普通に話したり、暴れたり、固まったりしてたくせに」


「風子、話もしましたし、多少なりともは暴れもしました。

 それは認めてさしあげましょう。ですけど、固まってはいません!」




変なところで意固地な奴だ。

なんにせよ名前を知っちまったもんは仕方がない。



「よろしくな、風子」

「……」




少しばかり迷うような仕草を見せた風子は、数瞬のあとに決心したようで。



「はい、よろしくです! 変な人達!」




大声で俺達を変人呼ばわりしてきやがった。



696 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/11(木)
05:28:15.30 ID:aPAdbmbY0
これでまた、『クセのある人物集』に記念すべき1ページが刻みこまれたのだ。

俺はちいとも嬉しくはないがな。


おっと、風子が何かを言わんと口を開いたぞ。



「風子、わかってしまいました。お二人ともは、なんだか爪弾き者っぽいです。


 そこはかとなく匂ってくる言葉の荒々しさが、

 その駄目っぽさに可憐な一連の華を添えているといった感じです」




意味がよく分からない表現技法を織り交ぜるな。

しかし春原は当然として、俺の言葉が荒々しいだと?




……言われて思い返してもみれば、確かにそうかもしれない。

岡崎、春原の両名と行動しているうちに、


多少なりとも口調や言動が移ってしまったという自覚が俺にもある。

そうだ、転入初日はもっとマトモだったはずだ。




いや、マトモってなんだよ。

それではまるで、今の俺が狂っているとでも言わんばかりじゃないか。




ともかくだ、もう少しくらいは控え目であったようには思える。


うーむ、いかん。なんだかんだで授業をサボっているし、トラブルは断続的に招くし、

そして今もこうやって呑気に話し込んでいたわけだ。




改めて自重し、自戒せねばなるまい。



「おっとと、そろそろ昼休みになりそうだね」


春原が背伸びするように床から立ち上がり、埃を払ってから続けた。

「んじゃまあ、ぼちぼち戻って昼飯とシケ込みましょうか」




そうだな、俺も特に異存は無いぞ。腹が減って鳴りそうだ。




キョン「ここが私立光坂高等学校か…」



1 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/08(月)
23:51:31.64 ID:+MzZ4QFh0
渚「この学校は、好きですか?」



キョン「…俺に聞いておられるのですか?」



渚「……」




キョン(転校初日の人間に聞かれても困るものだが)



26 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
01:18:22.97 ID:nL41DFug0
転入初日から遅刻とはな。

それにしても、なぜ校舎というものは示し合せたように高い位置へと在りたがるんだろうか。


いや、校舎に疑問を投げかけるよりも建設に携わった人間に直訴するべきだとか、


そもそも今さら不平を述べたところで状況は改善されないとかそんな話は俺も十二分に承知している。


とにかく、俺が主張したいのは毎朝せっせと歩かされる身にもなって欲しいというものであり……



「この学校は、好きですか?」




下らない思惟に耽っていた俺は、なんの前触れもなく聴こえたその声によって振り向かされた。


上り坂の途中、時間が時間というだけに俺の他には誰もいない。


呟いたのは、とっくに過ぎ去った人波から一人だけ取り残されるように佇んでいた女生徒のようだ。


これはつまり、俺に話しかけてきたということを示しており、

延いては俺が何らかの回答をせねばならんということなのか。



27 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
01:30:24.81 ID:nL41DFug0
意を汲み難い質問に相対した俺は、

やがて下手な波風を立てるべきでないという解答に達した。



「いや別に、取り分けては」




無難にいこう。

というより、むしろ俺がこの街に来たのはほんの数日前なので、これ以外の答えようがないのだ。




「わたしは好きです」



おいおい、自己完結かよ。



「そうかい、そりゃ良かった」




さてと、用が済んだところで俺は先を急がせて貰うぜ。

走ればまだ、ホームルームの尻には間に合いそうだしな。


「慣れない道に迷いました」というベタな言い訳にも有効時間というものがあるものさ。

悪く思わないでくれ。


再び長い坂を上るべく高みの校門を見据えた俺だったが、

やはり引っ掛かるものを感じ、女生徒のほうを振り返ってしまった。




「あんまりもたもたしていると不味いんじゃないのか?」

「えっ……?」

「ほら、いこうぜ」




手を引いてのエスコート、なんてことは流石に俺もしなかったが、


腕時計を見せつつ声を掛けたことが功を奏したのか、彼女は再び歩き出したようだった。



俺の背後数メートルの位置を、付かず離れずに。


小刻みな足音を響かせながら。



29 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
02:05:28.05 ID:nL41DFug0


こうして俺達は登り始めちまったらしい。



長い、長い坂道ってやつをだ。





32 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
02:10:51.35 ID:nL41DFug0
物事には往々にして転機ってものがあるように見受けられる。

季節の移り目だとか、年の初めだとか、長期休暇の入りだとかそういった時節的なものから、


理由もなく精神的に晴れ渡ったその瞬間が、その時だって場合もあるのかもしれない。



ともかく、現在は桜乱れるこの季節。


入学シーズンという転機の定番でもあるのだが、そんなことなど俺には一切関係なく、

御覧の通りの転校が、俺にとっての転機だったということらしい。


不況の煽りだかサブプライムだかは知らんが、

親父が急な転勤で外国へと飛んでいき、ついでに母親まで後を追って行った為、


俺は遠く離れた親戚を頼りにこの街へと越してきたわけだ。

だからって私立へ転入させるのもどうかというものではあるが、


ここらの近場にはもとの学校と肩を並べられる程度の進学校がなかったということと、

俺がもう三年である為にあと一年程度しか高校へと通わないこと、


さらには当の居候先でもあり俺達がお世話になっている方からの有難い援助が背中を押した形となった。

正に至れり尽くせりというものだ。




何れにせよ、両親が自宅を売り払うなどという暴挙に出てしまった後だったので、


住む場所を変えるという選択は避けられなかったというのが実情である。

それに俺には妹もいる。


俺と二人もとの街でアパートなぞを借りて不安定に荒みそうな生活を送るより、


この街での親戚を仮初の親代わりと認め、学費は奨学金とアルバイトで凌ぐ方が断然マシとの判断だ。

これでも俺は、妹思いで名が通っていたからな。


まあ半分以上は嘘だが。



などなどと、面倒な事情を長々据え終わったところで、


俺は今日から世話になる見慣れない教室の扉を開け放つこととなったわけだ。



34 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
02:21:19.07 ID:nL41DFug0
「すみません、見慣れない道に迷ったものでして」



配属がD組になることは予め知らされていたので、


俺は遠慮がちに扉を開けると、如何にも地味で無難な切り出しを以って許しを請うた。

迷ったというのも事実ではあるが、遅刻の決定打となったのは、


信号を渡り切れずに迷っていた婆さんに手を貸そうとしたら逆に絡まれた、

などという俄かには信じ難い話の所為だ。


婆さんはどうやら落とした硬貨を探していたらしく、

俺が手を貸そうとしたことで「盗まれる」とでも思ったのか、


結果的には親切心が裏目に出た形となり、無駄な時間を食わせられたわけだ。



「じゃあ君の席は、窓際の奥から二番目ね」




俺が回想している間に自己紹介も滞りなく済み、

なんの因果か、もとの学校と同じ窓際の席という定位置に案内されたのだ。






35 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
02:30:27.06 ID:nL41DFug0
まず疑問なのは、背後の席と隣の席が空席だということ。

机が余っているだけかと思いきや教科書類は突っ込まれたまま。


これは何を現しているのかと思案し始めたところで、



「あの、はじめまして」



という助け船が寄越された。


ショートカットの髪にリボンを結いつけた、いかにも控え目な様相。



「どうも、よろしく」




俺も初日で調子が掴めないので、相手に合わせて返したところ、

幾許か安心したように自己紹介を施された。




「わたし、藤林椋といいます。

 一応はD組の委員長です……その、よろしくお願いします」




言うなり必要十分以上に礼儀正しく頭を下げられた。

感動したね。


何故かはわからないが、この素朴さに俺は心底からの感嘆を覚えたのさ。



38 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
02:41:46.95 ID:nL41DFug0
朝のホームルームも終わり、一校時目まで僅かに時間が空いたというのに、

俺に対して好奇の目を向けてくる奴は今のところこの委員長くらいだ。


転校生ともなればもっと優待されるようなイメージがあったものだが、

ここの校風なのか或いは三年というグループ観念が凝り固まった時期の影響か、


別状、思っていたほどの騒乱も巻き起こらないらしい。

期待していた訳ではないが、些か寂しさを感じてしまうのも事実だ。


まあいいさ、じきに溶け込めればな。



「ところで、俺の後ろとその隣の席のことを訊ねてもいいか?」

「えっ……」




なんだその困ったような顔は。

開かずの扉ならぬ呪いの席というものでもあるまいに。




「いえその、少しばかり癖のある方たちでして……えっとぉ……」



昼までにはわかるとおもいます。


という謎の言葉を残し、藤林は足早に自席へと戻っていった。



39 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
02:53:13.53 ID:nL41DFug0
一時間目。

転校を控えていた俺にとって、一番の不安が何だったかというなれば、

間違いなく学業についてである。


即ち、前の学校とこの学校で致命的なほどに学力差があるとすれば、


三年という時期も相俟って、飲み下せないほどの辛酸を舐めさせられる恐れがあったからだ。

だがそれも杞憂に終わったらしい。


なんてことはない、普通の進学校だ。

むしろ俺のもといた所より若干ではあるが手を抜けるのでは、というほどの具合。




これでもそれなりに学業には励んでいたしな。

ここらの人口が少なさが学業分野にまで関係しているのかは定かではないが、


割りと住み良い環境であることは何となしにわかった。



ならば、あとは普通に過ごしていければそれでいい。



41 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
03:03:36.09 ID:nL41DFug0
適当に授業をこなし、空いた時間でクラスメイト達に挨拶回りを行い、

それなりの手応えを感じた始めた三時間目の終了直後。


教室内の空気が一変、しんと静まりかえった。



「おいおい……」



思わず俺も零しちまったね。

ここは進学校だろう?


なのになんだあれは、乱暴に教室扉を開け放ったのが、

だらしなく制服を着こなした金髪野郎と、


見てくれは良いが何処か目付きの悪い男子生徒二人組の御登場だ。



なぜこんな時間に?

なぜ金髪?

なぜ威圧感を携えている?




そのような様々な疑問が浮かんだものだが、

教室中の忌むような視線に怯むことなくその二人は俺の方へ――


つまりは”あの空席”へと腰を据え、頬杖をつくなり無言の重圧を振りまき始めたのだ。



どうするべきか。

いや、答えは決まっている。


こちとら転校生。



挨拶回りは平等に、だろ?



45 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
03:16:55.99 ID:nL41DFug0
「おはよう、転入してきた――」

「見ない顔だねぇ、君?」




氏名を述べようとした金髪が俺の言を遮り、ニヤリと不敵な笑みを湛えていた。


目付きの悪い方は俺の後ろの席で依然、頬杖をついたまま興味なさげだ。

やれやれ、出鼻を挫かれちまったが郷に入りては郷に従え、


ここは相手のペースに合わせるか。



「名前は……へぇ、なるほどねぇ」



金髪は馴れ馴れしくも俺の机に掛けてあった鞄を探ると、




「キョン、か。変な名前だな」



ああ、我が妹の呪縛がこんな所まで続くとはな。

新たな学校へと通うと聞き付けるや否や、


俺の身の回りの物に仇名を書きなぐってはいたが……

あの時、叱ってでも止めさせるべきだったか。

いいや気を取り直そう、




「これから、よろしくな」



48 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
03:28:53.62 ID:nL41DFug0
「ま、よろしく」

金髪に続き、

「ああ」

溜息にも似た裏席の男の頷き……で、いいんだよな?




「僕は春原。春原陽平。

 スノハラは、春の原っぱと書くという事をくれぐれも憶えておくように」




金髪が要らぬ注釈を交えて述べると、

「岡崎朋也」

目付きの悪い男もぶっきらぼうに告げ……



沈黙が訪れた。




さて、俺はどうすればいいんだ?

ハイさようならとしようにも、俺の席とこいつらの席は隣同士。


下手に拗れちまえばこれからのことに響きそうである。

かといってこの雰囲気。

言ってしまえば非常にやりにくいのだ。




仕方なく、俺が最近見たお笑い番組でも肴にするかと口を開きかけた時、

再び助け船の再来となったのだ。



49 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
03:42:23.96 ID:nL41DFug0
委員長の藤林だ。



「あの、岡崎くん。新学期早々、遅刻はよくないと思います」



その態度は相変わらず遠慮勝ちであるが、


他の生徒達が一様に距離を取るなかにおいては果敢にも見える。



「……」



対しての岡崎は沈黙。


おいおい、女性相手にそりゃないだろう。

このままいくと藤林が泣きだしてしまうのでは、という俺の懸念とは裏腹に、




「配布物のプリントです」



朝の時点で配られていた紙切れを差し出すと、

岡崎も観念したように受け取っていた。


健気だね、まったく。

もしかするとこの二人の間には、

新参者の俺に理解不能な何らかの繋がりがあるのかもしれない。




そう思い立ち、ここ暫くは様子を見る方向で過ごそうと俺は心に決め、

その後の学校生活も特に問題なく消化していった。



51 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
03:53:10.21 ID:nL41DFug0
その日の放課直後。

俺を呼びつけていた先生を訪ねるべく、俺は生徒指導室を訪れた。



「失礼します」




生徒指導という名称だけで、なんとも緊張するものだが、

狭い室内に居たのはたった一人の老教師だけのようだった。


彼は俺の姿に気が付くなり柔和な笑みを浮かべ、曲がった腰を叩きながら出迎えてくれたので、


転入初日も重なって張りつめていた俺の緊張は何処へともなく散っていった。



「どうだったかの?」

「どうだった、と言われましても」




正体不明の微笑みで問われても、どう答えようもない。

しかしこの老教師、幸村先生は、俺が転入する際に色々と手を回して頂いたのだ。


俺が厄介になっている親戚の家の知り合いだとも聞かされた。

ぞんざいに扱う気など毛頭ないが、下手な受け答えて気を悪くされても困りものである。




「面白い二人だとは思わんかね?」



面白い……はいいとして、二人?



52 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
04:08:07.89 ID:nL41DFug0
思い当たる節などない。

なんて叫べるほどに鈍感な奴は、この世の中にはいないだろう。

俺は思い当たった名前を挙げる。




「岡崎と春原ですか?」

「曙と朝青龍?」



どこの関取だ。




「すまんすまん、どうも耳が遠くて。岡崎と春原だった」

「まさか幸村先生が仕組んだと?」

「うむ、捻じ込んだ」




捻じ込んだ?



「何故に」

「面白そうだったから」



なんとも他人事ですこと。


出来ることならばもう少しばかりでいいので、

溶け込みやすそうな連中の所へ捻じ込んで欲しかったものなのですが。




「そう嫌な顔をするもんじゃあない」

ホッホッホ、とどこぞの黄門さまよろしく優雅に笑い終えてから先生は付け足した。




「言いたいことはそれだけだったからの。君も上手くやっていけてるようで、何よりというもの。


 困ったことがあれば何でも相談してくれるといい」



果たして頼りになるのかならないのか。


要するに、俺には理解し難い人だということだけは悟った。




55 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
04:22:04.07 ID:nL41DFug0
下校路。

共に歩く友人など、当然ながらまだいない。

ともなれば自然に風景へと目が移りゆくものらしい。


普段はそこかしこ勝手気ままに生えている街路樹も、

見慣れない街で見るそれは、いつもとは少し違った一面を覗かせてくれている。




なんてガラじゃないだろ、俺。

なんだかいやに落ち着かない。


この街へ越すに至って身辺の整理と共に心の切り替えも済ませたはずなのに、

やはり何処かで引っ掛かってしまう。



「はぁ」




溜息と共に、二つ折りの携帯電話を取り出してみる。

だが光は灯らない。

電源どころか電池パックを抜き出しているから当たり前だ。




今すぐ叩き割ってやろうか?



思い立って両手で握ってみる。

力を込めればいとも簡単に真っ二つと出来る自信はある。




やるか?



…………。

いや、後にしよう。

今は家に帰らねば。


一刻も早く、アルバイトを探さなければならないからな。


57 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
04:37:50.12 ID:nL41DFug0
「キョンくんおかえり」



敷居を跨ぐなり明るい声を掛けてきたのは、

つい先日から晴れて中等部へと足を踏み入れたばかりの我が妹だ。


中学生にもなり制服を着込むようになると、それなり大人びて見えるものらしい。



「ただいま、学校はどうだったか?」




そう訊ね終えたあとに、

俺自身が幸村のジイさんと同じ質問を妹へ投げかけたことを自覚し、苦笑してしまった。


しかし妹は俺の表情を意にも留めずに首を捻り、



「ふつー」



なんともいえない微小を浮かべた。


どうやら上手くはやっているらしいな。

そもそも中学校へ上がるという、切りにいい節目の転校ならばそう弊害も出ないものだろう。




「そうか、それは何よりだ」

「キョンくんは?」



俺か。



「ふつーだ。至って平凡なもんだぞ」




例の二人組など、大いに許容範囲内ってものだからな。




59 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
05:01:56.49 ID:nL41DFug0
その後、夕食の席で俺はアルバイトを探す旨を申し出たのだが、

「学生は学業が本業でしょう? 金銭のことは気にしないでいいから」


という一辺倒の押しによって譲歩せざるを得なくなり、さらに粘ってみたものの、

「どうしてもというのなら、今の学校に慣れてからにしなさい」


という折衷案に落ち着く形となった。



正直、なぜこの母役を買って出てくれた人がこうにも良くしてくれるのか、その真意は定かではない。


俺の母は遠い親戚と言っていたものの、当の俺は一度も顔を合わせた覚えがないし、

歳不相応に若く見えるのが余計にその不可解さに拍車を掛けている。


既婚者ではあるあらしいが、単身赴任とのことで夫も姿を見せてはいない。

そう、この人は割かし広い家に猫一匹と共に暮らしているのだ。




かのような様々な要因から来る一種の不信感、とでもいうのだろうか。


自分でも恩を仇で返すような考えだとは思うが、今までの経験からどうにも勘繰ってしまい、


それ故に「おばさん」などと軽々しく呼べないのが俺の現状である。

妹は馴染んでいるようだけどな。




「寂しいものなのよ、一人は。久し振りに賑やかになって、わたしも嬉しいわ」



などと屈託なく笑う顔を信用していいのか悪いのか。


若しくは、俺が統合失調症などを患っているかもしれない可能性を疑うべきなのか。



なんにせよ、今は保留だ。

なにもかもな。




60 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
05:15:46.48 ID:nL41DFug0
翌日。

前日の二の轍を踏まぬようにと心がけていた俺は、

晴れてホームルームに余裕をもっての登校を果たしていた。


もちろん自慢できることなどではなく、至極当然のことではある。



同じく当然の如く、といえど二日目ではあるが、


各所からの噂どおり岡崎と春原は未だ不在とのことらしい。

クラスメイトも委員長の藤林を除けば、取るに足らないといった面持ちのようだ。


変わったクラスだな、と今更ながらに思えど、

それがここの仕来りなのだとすれば、俺もそれに倣うべきなのだろうか。




などと俺は意味のない思案をはじめ、一時間目に片足を突っ込んだ頃に岡崎が姿を見せたのだ。




62 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
05:25:43.79 ID:nL41DFug0
「よっ」



小声を掛ける。



「よお」



一瞬、意外そうな顔を見せたようにも思えたが、岡崎は返してきた。


ぶっきらぼうだが反応はする奴らしい。

感触を得た俺は、教師の目を盗んで続けた。



「やけに早いじゃないか」

「まあな」


「藤林の叱責も無意味じゃあないらしい」

「そういう訳ではないけどな」



妙に歯切れが悪い。

そう感じ取れたので訊ねた。




「なにかあったのか?」

「いや、別に何かというほどでもない」

「そう勿体ぶられると、こっちとしても余計気に掛かってしまうものだ」


「面倒な奴だな……」



うんざりを隠そうともせず露にし、岡崎は続けた。



「校門のとこで変な奴と会ったんだよ」




65 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
05:38:28.76 ID:nL41DFug0
この学校に措いての変な奴は、お前と春原だ、

なんて皮肉ればせっかく拡がり掛けた間口を閉じ兼ねない。


それに校門というフレーズには俺も思い辺りがある。



「この学校は、好きですか?」

「なんだそりゃ」




俺のモノマネに岡崎が吐き捨てる。

校門の奴も同じフレーズを繰り返すということはしなかったらしい。

ならばこうだ、




「坂の途中で止まっていたりはしなかったか?」

「してたな」

「で、気弱そうで敬語で、小走りで……」


「ああ、それからあんパンが好きらしい」



あんパン?

そいつは初耳だ。




「まあとにかく、そういうこった。俺は寝るからお前は勝手に授業にでも励んでくれ」



言うなり突っ伏した岡崎が、さらに一言。




「そうだ、藤林は泣かすなよ。面倒なことになるからな」



これまた意味深な何かを伝えてくれやがった。


俺がそういうことをする人間に思えるのかってんだ。

にしても、後ろで堂々と寝息を立てられると真面目にやっている俺としてはやり辛いんだがな。




67 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
05:55:42.86 ID:nL41DFug0
「そんじゃな、春原が来たらよろしく伝えておいてくれ」



一校時目終了のチャイムが鳴るや否や、


岡崎が後ろ手に振って教室から出ていった。



「あっ……プリント……」



という呟きで立ち尽くしたのは、


入れ替わるように席へとやってきた藤林だ。



「残念ながら、遅かったようだな」

「そうみたい、ですね」


「ここへ来たばかりの俺が言うのも変な気がするが、

 どうして藤林はそこまで岡崎に入れ込むんだ?

 だってそうだろ、」




他の奴等はこうにもクールなのに。という言葉は辛うじて呑み込んだ。

出過ぎた真似は不味いだろう、俺。かつての先例に学べ。


藤林は俺の言葉をどう解釈したのか、遠慮がちな態度をさらに縮めてから言った。




「岡崎くん……春原くんもですけど、二年生の時から出席が悪くて進級ギリギリだったようですし、


 だからその、三年生となってまだ始めのうちに何とかできないかなと思いまして……」

「へぇー」

「あの、委員長としてですよ?」




そう念を押さなくとも、しっかりと伝わっているんだが。

69 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
06:10:28.97 ID:nL41DFug0
「仕事熱心だな」

「そうでもないです、不器用ですから」



照れたように笑う藤林の仕草は、


先ほどの岡崎と相対している時とは全く異種のものだ。

緊張成分が抜けているというかなんというか。


まあ、俺が察したところここは行儀のいい校風ではあるし、

金髪、延いては不良とレッテルを張られているという噂も流れている始末の二人と、


会話を交わせる人間がいるだけで奇蹟的なのかもな。



という主旨を、柔らかい言葉へと変えて伝えた。




「でも、キョンくんだって早くも二人と打ち解けてますよね?」



俺の呼び名は初日の春原の所業で触れまわされたから最早よしとしよう。


だが、打ち解ける?

二言三言に毛の生えた会話しかしていない、この俺が?




「いえ、その、なんというか、岡崎くんも春原くんも排他的というか、

 近寄りがたい雰囲気を持ってらっしゃいますので……」




言いたいことはなんとなく伝わってくるが。



「二人とも悪い人ではないので、よろしくお願いします」




委員長に言われては仕方がない。

特別なことをする気など毛頭ないが、顎をしゃくる程度の善処はしてみるさ。



73 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
06:20:24.84 ID:nL41DFug0
二校時目の古文。

ともなればあの老教師、幸村のジイさんの出番である。


が、その授業内容を単に形用するならば、のらりくらりといったそのものだ。


なんたって教科書を読み上げる際、傷の入ったCDのように何度も復唱しているからな。

恐らく行を読み違えているのだとは思うが……


持ち芸なのだろうか、それとも御歳を召したがための真性なる過失なのだろうか。



そういえば春原もまだ姿を見せていない。


岡崎も帰っては来ない。大方、ふけているのだろう。

前の学校ではそんな人種が居なかったので、些か興味深く感じてしまう。


と、好奇心を抱いてしまうのは俺の悪癖だったな。



戒心せねばなるまい。



74 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
06:33:48.66 ID:nL41DFug0
授業終了でお開きかと思いきや、

ジイさんが俺の元へとのんび~りやってきていた。



「どうかね?」




どうと問われてもな。



「まあ、ぼちぼちですよ」

「そうかいそうかい」



なんだ一体?




「特に用は無い。怪訝な顔をせんでもよかろうて」



教師に歩み寄られたことで教室内の視線を集めてしまっているのが心地悪い。


と感じ始めたところで、岡崎が帰ってきたようだ。

それを目に留めた幸村ジイさんが鋭い眼光を――なわけないか、俺の気の所為だろ。


ともかく諭すように訊ねていた。



「サボりかな?」

「あ、いや、実は腹の調子が悪かったから一時間中トイレへ……な?」




……え、まさか俺に振っているのか?

というより一時間中トイレって無理があるだろう?


ま、まあ、確かにそうですね。岡崎の奴、朝から顔色悪かったみたいですし。




「ふむ、そうかそうか、食中毒には気を付けんとな。健康第一とは言ったものだからのう」

「ああ、昨夜のあんパンがどうにも悪かったらしくてな」




やがてジイさんは何やら嬉しそうに笑いつつ、幕引きとばかりに教室から去っていった。



76 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
06:47:06.59 ID:nL41DFug0
「ナイスアシスト」



僅かに口元を歪ませる程度の笑み。

思えば、岡崎の感情を初めて目にしたような気がする。


しかし腑に落ちない。



「あれでよかったのか? 誰がどう考えても不自然だろ?」

「いいんだよ、あれで」




のっしと椅子と壁により掛かり、お決まりの頬杖。

そういう自堕落なポージングが変に様になるな、こいつは。

ところで、




「どうして急に戻ってきたんだ?」

「一応だけどな、数学は受けておかなくちゃ不味いということを経験上知っている。


 あいつは厳しいからな、去年は補講とやらで苦労させらたものだ。お前も気を付けておけ」



「微塵すらもありがたくはない豆知識だな」


「悪かったな」



やがて突っ伏し、



「んじゃ、俺は寝るんでよろしく」



沈黙してしまった。


何がよろしくなのか説明くらいしろというものだ。

気の毒に、藤林の奴がタイミングを見計らえずに右往左往しているぜ。



78 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
06:57:29.11 ID:nL41DFug0
寝る、か。

わからんでもないさ。

俺も一年次の頃はそういった態度を取っていたからな。


ゴタゴタしていて純粋に疲れていたので、仕方がなかったってのが要因ではあるがな。

けれども二年も後半となるとそれなり真面目に取り組み始めたのだ。


高校へ入学した時点と比べて、成績が二次関数ばりに急降下してちゃあ、

流石の俺でさえ笑うもんも笑えなかったしな。




だけどな、そろそろ危ないんじゃないのか?

学期始めならばまだまだいくらでも取り返しの付けようがある。

ここらで心機一転……




「って、聞いているのか岡崎?」



うんともすんとも言わねぇ。


俺の小言に意も介さずとは、大層な筋金が血管のように張り巡っているのかもしれない。

委員長、すまないが俺には手にあまりそうだ。



83 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
07:11:29.44 ID:nL41DFug0
三校時目終了、と同時。



「じゃ、俺は出掛けてくる」

「今度は何処へだ?」


「本当に口煩い奴だな。旧校舎の方だよ、あっちは静かだからな」



そのポケットに手を突っ込んだ後ろ姿を俺は見送った、


後で、しまったなと気が付いた訳だ。



「プリント……」



そうだった。

プリント配布要員、藤林を忘れていた。


俺が声を掛ける暇もなく、藤林は崩れおちるように岡崎の席へと座り込むと、

打ちのめされたボクサーのように俯き、肩を震わせ始めた。




っておい、まさか泣いてなんかいないだろうな?



「わたし、やっぱり駄目なんでしょうか……」


「お、おい、急にどうしたんだ?」

「だって、去年のお姉ちゃんなら何事も上手くやっていたのに……」


「落ち着こうぜ、些細なことであまり思い詰めるなよ」



俺が安否を気遣うべく肩に触れようと手を伸ばした直後だ、


そう、「今、さらっとお姉ちゃんと言わなかったか?」という疑問に行き当たった瞬間。



俺の頬を掠めるように何かが飛び去って行き、


遅れて風圧を感じ、次いで怒号が響いてきたことに俺は戦慄を覚えた。



88 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
07:23:56.89 ID:nL41DFug0
「くぉーらぁ~! ともやー!!」



怒り肩とはこういう様相を指すのだな、という塩梅で、


爆発寸前のニトログリセリン並の気迫を以って女生徒がツカツカと歩み寄ってきた。

で、一言。



「じゃない!」




否定句らしい。

よほど意外だったのか、両手に携えていた漢和辞典と和英辞典を取り落としていた。

ところで誰なんだ、こいつは。




「誰よアンタ!?」

「こっちが訊きたい」



そんな俺の疑問を解消させたのは藤林だった。



「お姉ちゃん……」




なんだって?

この品性の欠片もなさそうな奴が、藤林の姉だって?



そうかいそうかい。



……冗談だろ?




91 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
07:35:30.37 ID:nL41DFug0
「あの、こちらキョンくん。転入してきたって話したよね?」



ピリピリと張り詰めた空気のなか、藤林が矢継ぎ早に紹介する。




「キョン~? 今時アイドル気取りかこのモミアゲがぁー!」

「ほっとけ」



さらに藤林が割って入る。


といっても姉妹なのだから両方藤林なのだろうが、

ここでは穏やかな方の藤林を藤林と定義しておく。

いかん、ごっちゃになりそうだ。


とにもかくにも藤林が、



「それで、こっちがわたしのお姉ちゃんの杏です」




丁寧なご対面、加えてご紹介預かりまして誠に感謝致します。

ところでこのキョウお譲のキョウは、凶行の凶なのでしょうか?


でしたらば、殺村凶子というニックネームなぞ――



「アンタ今さ、下らないことを考えていなかった?」

「いいえ全然、露ほどにも」


「じゃあ訊くけど、漢和辞典と和英辞典、どっちがお好み?」

「敢えて言うなれば、どちらも好みでない」

「そう……」




ちょっと待て、なぜ両手を振り上げているんだ?



99 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
07:54:50.63 ID:nL41DFug0
数分後。

一度は俺の眉間にめり込み掛けた辞典(凶器)も、

今ではすっかり元の鞘(カバー)へと収められたようで、




「ふーん。で、アンタは椋の味方ってわけ?」

春原の机に腰掛け、足を組むという大胆なのか単に素行が悪いのか、


要するには高圧的な態度で杏が問い掛けてきたのだ。



「そうだ、俺が悪者には見えないだろう?」

「どっからどう見ても悪人ヅラじゃん」


「知るか。少なくとも俺は今までの人生の中でそう言われたことは一度もない。

 人様を見かけで判断しないでくれ。


 むしろ初対面の人間に躊躇なく辞書を投げ放った、お前の人間性を疑うね」

「アンタの概評なんてゴミ以下よ。なんの価値もないから」




こいつ……。

いや抑えろ、こういうタイプは一番係ってはならない人間だ。

深入りするな、俺。



「とにかく、はい!」


「なんのつもりだ?」

「見て分かるでしょ? プリントよ、今すぐ朋也に渡してきて」

「なにゆえ?」


「アンタは椋の味方なんでしょ? それともさっきのは上辺だけの嘘?


 もしそうだとしたら、アンタは男としてのプライドを捨てるとともに、椋を泣かせた罪で――」



――命も捨てることになるわ。




どうやら岡崎の「藤林を泣かすな」は、本物の忠言だったらしい。

今さら思い返したところで、それこそ後の祭りだがな。



102 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
08:09:22.66 ID:nL41DFug0
畜生、チャイムが鳴りやがった。

なんの因果で転入二日目にして授業怠慢せにゃならんのだ。


俺はこれでも真面目な部類に辛うじては入れるくらいの人間性を、

自他共に示してきたはずだ。

それがどうしてこうなる。




あの姉も姉だ。

見てくれと口と勢いだけではなく、

男のプライド云々という交渉術だか揚げ足取りだかまで織り交ぜてきやがる。


退くに退けないという状況に追い込まれたのが心底憎い。



「ちっ」



おっとと、舌打ちなんかしてどうしちまったんだよ俺。


焦ったところで仕方がないだろう。

サボりを問われちまったら問われちまったで、あんパン食中毒を語ればいい。


あの効果は岡崎が実証してくれたからな。

岡崎にできて俺にできない訳があるまい。

たぶんな。




それは置いておくとして、岡崎の奴は旧校舎の方へ行くと言っていたが……

果たして旧校舎のどこなのだろうか。


そもそも、旧校舎の内部構造すら知り得てはいないというのに。



103 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
08:17:00.90 ID:nL41DFug0
探索の掟、だかなんだかを本で読んだことがある。

アタリがある場合を除けば二度手間を避けるため、

端から探っていけとのことだ。


呼び方は別に一人ローラー作戦でもいいが。

要は、地道にやれってこった。



まずは一階からだろう。


なになに、ここは資料室か。

廊下には人気もなさそうだしサボるには持って来いとも取れる。

これは一発目から当たりを引けそうかもしれない。




では、念の為にノックを二度行い、



「お邪魔します」



進入。



「いらっしゃいませぇ~」




迎えられる嬌声。



「失礼しました」



退出する俺。

どうやらここは、何かの店を営んでいたらしい。


後回しにしよう。



108 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
08:38:43.86 ID:nL41DFug0
一階を探るも手応え無し。

腕時計で確認を取ると、授業開始後早くも十分が経過していた。


その事実にうんざりしつつも途中で投げるわけにはいかない。

乗っちまったものは仕方がないのさ、一度やり始めたら男のプライドが邪魔をするからな。




しかし、出過ぎた真似は災禍を招くと予め念慮していたというのに、

結局俺はというと、トラブルの方から飛び込んでくる体質を備えているらしい。


やれやれだよ、まったく。



溜息交えに階上へと向け探っていく。


時間短縮の為に鍵がかかっているであろう場所は素通りし、そんなこんなで最上階へと至った。

階段登ってすぐ右手に演劇部室。左手には長く伸びる廊下。


取り敢えず演劇部室より奥は廊下の突き当たりだったこともあって、そこから探ってみたものの、

室内は雑多な物が累々と積み上げられており、


床には埃すら舞っていたので、長らく使われていないのだろうと悟った俺は早々に切り上げることにした。



次いでの左手方向は、


空き教室、空き教室、空き教室……

と変わり映えもなく続いていき、そのまま終了。


途中、やけに小柄な生徒らしき影を目撃したような気もしたが、


もう一度目を凝らした時には姿がなかった為に、俺の心労から来る幻視なのだということで納得しておいた。



さてと。


おいおい、どこにも居ないんじゃないのか?

残りは何処かあったかな。あとは鍵が掛かってそうな場所ばかりしか残ってはいないが。


まさか、先ほど通り過ぎた図書室だったりするのか?

そんな、授業中に鍵を開け放っておくなど……




などと胸中でぼやきつつ、駄目もとで図書室の扉を引いたところ難なく開いた為、

俺は自身の詰めの甘さを呪わざるを得なかった。




118 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
08:58:53.35 ID:nL41DFug0
図書関連の場所は、あまり好きになれない。

それをこの場に措いてとやかく言った所で仕方がないものではあるが。




まあいい、当初の目的は果たせそうだ。何しろ見付けたんだからな。

ついでに小言を告げねばならんだろう、この状況は。


まずは何処からツッコミを入れるべきか。

ええい、面倒だから全部いこう。



「岡崎、お前のせいで俺の頭が飛散しそうだったんだぞ?


 それからな、全国にごまんと存在している図書室は八割方、飲食禁止という方針を打ち出しているはずだ。


 そこへ授業中忍び込んで堂々と弁当ランチに勤しむってか。

 まあそれはこの際いい、学校で鍋食ったことがある俺が言えた義理でもないしな。


 しかしだな、なんだそれは?

 授業を抜け出したかと思えば、これまた輝かしいほどの女生徒と逢引か?


 更には一つの弁当をつつき合っていると来たもんだ。

 おい、そこの君。そのクッションはなんだ。床に座るな、椅子があるだろう?


 御本を読み易いようにと温かな配慮を施され、用意されている椅子に座らずしてなぜ床に座る?


 それに見合う合理的な理由を単刀直入に聞きたいね、俺は」



これで足りたか?


いや、床に散りばめられている本にはまだ触れていなかったな。

よし!



「ちょ、ちょっと待てよ、落ち着け!」


俺の口を塞ぐべく先手を取った岡崎が、神妙に切り出した。



「俺にも良くわからないんだよ、この状況の意味が」




お前にわからないんなら、今し方ここへと誘われた俺には輪を掛けて理解しようがない。

なるほどな、この場は岡崎に委ねるとしようか。




122 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
09:12:30.09 ID:nL41DFug0
いい加減に疲れて腰が痛い

遅蒔きだが起点を書かなきゃ芽が出ないってことで勘弁してくれ

ということで休憩


CLANNADやったの数年前だから書いてて懐かしすぎる

220 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
23:17:30.77 ID:RJnmqkIy0
こないんじゃね?



221 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
23:17:57.94 ID:uL16dVsP0
多分もうこないよ・・・



222 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火) 23:25:16.83 ID:nL41DFug0
いや、たぶん来ると思うよ



225 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
23:29:35.61 ID:uL16dVsP0
>>>>>>>>>>>222




227 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
23:30:30.58 ID:mbCkq2g10
>>222

wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww



228 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
23:30:29.14 ID:EHpJBRdu0
>>222

あああああああああああああああああああ!



229 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
23:30:37.10 ID:nKiwf9kN0
>>222



242 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/09(火)
23:57:30.79 ID:nL41DFug0
すまんね、暇だと思ってたのに予定が一日ズレたもので

で、今読み直してるからもう少々待っといて


元々ココア飲みながら読む物語を目指してたんで、

読む方もそんな風に心構えてくれればこれ幸い

261 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
01:42:52.64 ID:u7GLEB/s0
「なんだそりゃ」



岡崎の釈明を一通り聞き受けた俺は、そう呟くほかなかった。

その内容はこうだ。




例によって授業を抜け出していた岡崎が安息の地を探していたところ、

偶然、通りかかった図書室の扉が開いていることを見取り、


「珍しいこともあるものだな」という思いから中の様子を伺った。



するとどうしたことか。




なんと、用意周到にも持ち前のクッションを床に敷き、女生徒が堂々にも鎮座しているではないか。


さらには外国語で書かれた小難しい本を読み耽っている。

不可思議に思った岡崎は、すぐさま訊ねた。



「何をしているんだ?」




しかし全くの無反応。

嗚呼、無常かな。

まるで空気のように扱われたため、一抹の寂しさが岡崎青年を襲ったのだ。


それでもめげない青年は、その後も執拗に女生徒を視姦し続けていたのだが。



ここで事態急変!




女生徒がおもむろにハサミを取り出すと、

「ハサミー!」

と叫びつつ蔵書を切りぬき始め――

265 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
01:58:29.20 ID:u7GLEB/s0
「お前、少し黙れよ」



岡崎が俺の語りを制した。

まあ、冗談交じりに半分近く誇張してしまった部分は謝ろう。


だがな、俺だって転入二日目にして立派に授業を抜け出すという荒技を、

否応も無くやってのけさせられたのだ。


こうでもしなきゃ、とても憂さは晴らせない。

岡崎だって、少しは同情してくれてもいいだろう?



「俺が知るかよ。


 文句があるなら直接的に杏に言え、俺だってあいつにゃ手を焼いているんだからな」



そりゃ至極ごもっともな見解だ。


とはいえ、俺が杏相手に不平を述べたところで、

新品のトラブルをオーダーしちまうことは公式ばりに自明の域まで達している。


あいつとは僅かばかりにしか対面していないが、

ああいうタイプの特性は、人様にとやかく説明されるまでもなく解ってしまうからな。




「やれやれ」



また溜息を吐いちまった。

それもそうさ、もう授業開始から20分少々経過している。


今さら戻って教室中からの視線を集めるより、

保健室にでも行っていたのだと、適当な方便を用いて切り抜けるべきな時間帯だ。




一体どうなるものかね、俺の行く末は。

転校初日の「普通の進学校だ」という確信と、「無難に過ごそう」という俺の想いは、


現在進行形でピシリとした音を立てつつ崩れ去っているような気がするぜ。



269 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
02:18:01.57 ID:u7GLEB/s0
かのようにして手持無沙汰となってしまった俺は、

小ぶりの弁当片手に俺達を眺め上げていた女生徒へ訊ねてみることとした。




「顔に似合わず、堂々と授業を抜けるとは何者だ?」



女生徒は無言のままキョトンとした眼を揺らし、同時に両頭の髪飾りも転んだ。


そのあまりに無防備な仕草は、まるで外敵を一度も見たことがない草食動物とでもいうべきか。


端的にするならば、おっとり……いや、のんびりとでも形容すべきか?

違う、もっと別の常人らしからぬ雰囲気だ。



浮世離れ。




そう、正にこの言葉が一番しっくりきそうである。


出で立ちも、肩甲骨辺りまでのセミロングヘアで、両サイドは丸く子供染みた髪飾りで留めており、


体型がふっくらというか、まあつまりは男にとって大事な部分が得盛りであり、


故にそのアンバランスさは、子供と大人の境界線、無知でいて博識、強硬でしなやか、


などという対極にあるべきものを同時に兼ね備えているようにも思える。



と、このように、俺が長々と観察できるほどの間が空いてしまったのだ。


つまりは、彼女は俺の質問に答えちゃくれなかったのさ。



岡崎も、さぞ辛かったろうに。

うん、俺も辛い。



270 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
02:28:35.94 ID:u7GLEB/s0
この重い空気をどのようにして吹き換えるべきか。

俺が本気で悩み始めた頃だ。



「ことみ」




妙に透き通った清流のような声で、彼女が呟いていた。

俺はその言葉の意味を探ろうと頭のなかで検索してみるも、どうにもヒットしない。




「ええと、つまり?」



パードゥンの意を伝えてみる。よく聞き取れなかったからな。


もう一度聴けばわかるだろうと俺は踏んだのだ。

しかし彼女は視線を落とし、首根を抑えて黙り込む。

そこでようやく気が付いた。




「すまん、見下ろしていた」



雰囲気に呑まれて当たり前の気遣いも出来ていなかったことを恥じ、


俺もしゃがみ込んで視線を合わせる。

岡崎もなぜか俺と同様にしゃがんだ。

さて、



「つまり?」



273 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
02:44:16.36 ID:u7GLEB/s0
「おとといは兎を見たの。昨日は鹿。今日はあなた」



女生徒は俺――ではなく、

俺の隣にいる岡崎に視線を合わせて語りかけた。




って、ちょっと待て。

さっきとは文脈が全然違うし、そしてやはり意図が掴めない。

まさか俺の日本語が通じていないのか?




「でもあなたは余計」



今度は俺に視線を合わせての一言だ。

それにより、どうやら俺は余計らしいということが分かった。


さらに微妙な間を置いてから女生徒が続ける。



「わたしはことみ。みらがなみっつでことみ。呼ぶときはことみちゃん」




……で、静寂が訪れた。

彼女は僅かな満足感を表情に浮かべているので、これにて寸劇は終幕という方向らしい。




なるほどな、ことみというのはこの女生徒の名前だったのか。

たったそれだけの自己紹介に、こちらがどれほどの時間と労力を割いたことか。


まあいいさ。



「俺は――」

「岡崎朋也。こっちがキョンな」



またかよ。偶には俺にも名乗らせてくれ。




279 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
03:01:03.56 ID:u7GLEB/s0
その後も岡崎が二言三言交わし、漏れ聴こえてきた情報から、

女生徒の苗字が”一ノ瀬”であるらしいことを知った。


さて、取り敢えずは図書館の主らしき人物と一通りの挨拶は済ませたのだ。

プリントも岡崎に渡したので他にやるべきこともない。


時間を潰すとしよう。



そうそう、不良には見えない女生徒が何故、授業中だというのにここに居るのか。


それが気に掛からないといえば嘘になるが、

かといって上手く進行しない会話に労力を注ぐ必要性も思い当たらない。


それに変に深入りするのも妙だしな。

好奇を持って首を突っ込むと大抵ロクな結果を招かないことは、経験則からも則れる。




かくして俺は近場の椅子へと腰掛け、適当に目に付いた本に目を通していくこととなった。

ふむ、桃太郎か。

懐かしいぜ。


ひとつ、朗読でもしてやりたい気分だ。



はぁ。

授業中に何やっているんだろうか、俺は。



280 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
03:17:07.67 ID:u7GLEB/s0
昼休みまで残すところ十分となると一ノ瀬がクッションを片付け始め、

それに倣って俺も本を片付けることとした。


不覚にも俺は読書熱が再燃し掛けていたので、

桃太郎だけには留まらず、金太郎にまで手を出しおり、


あまつさえ先が気になり始めたところだったが致仕方あるまい。



一ノ瀬が身辺を片付け始めたということは、


そろそろ俺たちもここから出なければならないということを指しているのだろうからな。


きっと、昼休みになると大勢の生徒達が図書室へと遊びにくるのだろう。

恐らく、それを避けるべくの行動なのだと察する。




「朋也くん、起きてくださいなの」



いつの間にか整理整頓を終えていた一ノ瀬が、机に突っ伏している岡崎を揺すっていた。


よくよく考えてもみれば岡崎のやつ、寝てばかりだよな。

何か原因があるのだろうか。




「おい岡崎、そろそろ起きないとまずいんじゃないのか?」



一向に起きないので、俺も一ノ瀬に加勢した。


それによりようやく目覚めたらしい岡崎は寝ぼけ眼を擦りつつ、



「なんか夢を見ていたような」




という呑気な呟きを残してくれたわけだ。

こいつは授業をサボることに対しては、最早なんの躊躇もないらしい。



284 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
03:41:53.58 ID:u7GLEB/s0
一ノ瀬と別れ、岡崎と共に一般生とより少し早目に学食へ。

正式にはまだ昼休みではないのだから当然ではあるが、


広いスペースに並べられた席は、そのどれもがガラリと空いている。

俺としてはこんな時間にこんな場所をうろつくのは憚られるんだが、


お利口にもチャイムがなるまで何処かに隠れているのも何か情けないし、

人が混み合って鬱陶しくなる前に食事を済ませておきたいのが本音でもある。




かくして、この学校での”当たり”はどれなのかと食券販売機を眺めていた俺に、

岡崎がぶっきらぼうに呟いたのだ。




「俺、牛丼でいいぜ」

「阿呆かお前は、こちとら転校してきたばかりで金がないんだよ」

「チッ……」




端から見れば恐喝の現場のように思えるが、これはこいつなりの冗談のはずだ。

自分で言うのもなんだが、俺は他者の思惑を見抜くことにおいては、


全国区の平均点より上を狙えるんじゃないかと思っている。

決してそうなることを俺が望んだ訳ではないが、まあそれなり色々な憑拠があるわけで。


……やや話が逸れたので元に戻そう。

ともかく岡崎の冗談は、受ける人によってはそれが間違いのない敵対心だと錯覚させてしまい、


衝突のキッカケになりえるには十分なほどの攻撃性を孕んでいるのだ。

火薬庫みたいなやつとでも言えばいいのか。



「あ、牛丼で」


俺が給仕のおばちゃんに券を差し出すと、

「おや、不良仲間が増えたのかい岡崎くん?」

などと嬉しくもない笑みを投げかけられてしまった。


こんな時間にここへ居ることに対してのお咎めが無いのを喜んでいいのか悪いのか。



ある意味、新鮮だ。



287 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
04:04:00.31 ID:u7GLEB/s0
「で、なんでお前はこんな時期に転校してきたんだ?」



うどんをひと啜りした岡崎が訪ねてくる。

俺も箸を止めて答える。




「まあ、色々あるのさこっちにも。俗に云う、家庭の事情というやつだ」

「けど結構遠くから越してきたんだろ?」

「そうだな」


「だったら、金がないのにどうして私立へ?」



変に鋭い奴だな、こいつは。

俺はそれらを説明するべく、手短に纏めて伝えた。




「公立から私立って……住屋が無いからって、普通そこまでするものなのか?


 それに、学費やら学校具やらで却って金を食いそうな気もするんだけどな」


「そこらについては妹だとかなんとか、口にするのも面倒なほどに雑多な理由があるんだよ。


 幸いにも、こっちで世話になっている家主さんも良い人みたいだったしな。

 加えて、制服やら鞄やら値の張る日用品については、


 家主を通じて幸村先生が前期生をあたってくれたようで、無償で手に入ったんだ」

「やけに風向きがいいな」


「ま、俺の日頃の行いが良かったのさ。親が転勤した時点で悪いだろ、というのはナシだ」



そこまで俺が話したとき、昼のチャイムが鳴った。




290 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
04:28:05.95 ID:u7GLEB/s0
ぞろぞろと巣へ戻ってくる蟻のような人波で、食堂が賑わいをみせ始めた。

その蟻の群のなかに一人だけ、やけに目立つ髪色があったかと思うと、


それがこちらへと歩み寄ってきた。



「おはよー! やっぱりここに居たかー!」



「よう、キョン。」

俺の名前はオマケのように付け足す、春原だった。



「今はもう、こんにちはだ」

すぐさま皮肉った岡崎に、

「もっともだな」


俺も賛同する。

しかし今まで寝ていたのか、こいつは。

もはや毎日遅刻だなんていうレベルじゃあないな。

にしても、


「よくここだと分かったもんだな」



俺が微妙な感心を述べると春原は陽気に笑いながら答えた。




「僕と岡崎の仲だしね。それに岡崎が昼に教室にいないとなると、あとはここくらいのもんだし。


 ついでに僕がさっき教室へ鞄を置きに行ったらさ、杏の奴が、

 『行方不明の朋也を追うべく、捜索隊員のキョンを派遣した』なんて言ってたんだよ。


 キョンが一緒にいるんなら益々、昼メシ食べにここへ来るはずだからな。

 ってことで、とりあえず僕もなんか頼んでくるか」




おいおい、俺はいつから捜索隊に配属されたんだよ。

まるでこれから先も働かなくちゃならんと示唆されているようじゃないか。



293 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
04:46:04.28 ID:u7GLEB/s0
春原が大盛りカレーを抱えて席へと座った着いたところで、

俺は先ほど岡崎にされた質問タイムの仕返しだとばかりに訊ねた。




「お前達二人っていつも眠そうにしているよな。

 夜通しのアルバイトでもやっているのか?」




もし良ければ紹介して貰いたいという思いも込めての質問だったが、

肩透かしの内容を返したのは口数の多い春原だった。




「べっつにぃ~。今はやってない。

 前にやってたスーパーのレジ打ちですら、人通りが多いせいもあって……というか、


 たぶん僕達に怨みを持った生徒が告げ口したんだとは思うけど、

 結局は見つかって謹慎食らわされちゃったからね。


 ここの学校って比較的真面目だから、バイト禁止だし」



だけど、許可を取ればいいんじゃないのか?




「まあそうだけど、僕や岡崎が『家庭の事情で』なんて言って信用して貰えると思うか?」

「その許可を決定的に駄目にしたのがお前なんだけどな」




岡崎が割って入り、右手で何かを握るような仕草を見せるとクイと回した。


なるほどな。アルバイトで得た金を元に、パチンコやっているところを目撃されたと。



「そういうこと」



岡崎が重く息を吐く。




296 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
05:09:47.19 ID:u7GLEB/s0
さらに春原。



「それからも何度か転々としてはみたけど、その度に見つかるわ処分が厳しくるわでさ、


 ただでさえ悪い評判がさらに悪くなっちまって、次やったら後が無いとまで言われる始末。


 まさか、こんな僕達が涙ぐましくも新聞配達なんかに汗水垂らす訳にもいかないでしょ?

 割も良くないし、何より僕は朝が苦手だからね。


 となると、ここらで夜に、そして発覚しにくいという意味で安全に働けそうな場所っていうと、

 あとは居酒屋くらいのもんでしょ?


 だけど万が一、そんな店で働いているのがバレた時にゃあ……ねぇ?」



間違いなく、学校には居られなくなるだろうな。


それに噂とはこの街にいる以上、必ず漏れるものだ。

例えば居酒屋を訪れた人物の子供がここの在学生であり、


その情報が親を介して子へと伝えられた末に、またも告げ口なり世間話の延長線上なり、

まあそれら全部のパターンを挙げれば切りがないが、


とかくして伝わったものが最終的に教師陣へと至って――ジ・エンド。



「流石にさ、僕も岡崎も三年になって退学なんか出来ないからね」


「当り前だろ」

そうなのか、お前達はお前達で苦労したんだな。

なんにせよ、俺には少しばかり遠い話だ。




「キョンは僕達と違って真面目くんっぽいからね。雰囲気的にだけどさ」




まあ、今日少しばかりではあるが、道を踏み外し掛けちまったがな。



「ははっ、それもいいじゃないか。面白そうだし」




サラリと怖いことを言わんでくれ、春原よ。

俺は平穏で無難に生きたいんだから。



300 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
05:30:59.98 ID:u7GLEB/s0
で、結局俺は最初の質問へと戻るわけだ。



「今はアルバイトをやっていないんだろ?


 だったら、授業に出席するくらいはしたらどうだ?」



春原が梅干しのように顔を顰めた。




「もう僕たちの習慣になっちゃってるしね、このスタイルが。

 それに真面目に受けるのもかったるいし、大体やってもわかんないし、


 眠いのはマジだからしょーがないんだって」



「なんで眠いんだよ?」



「いやぁ、日課というかなんというか、夜になると寮で岡崎と駄弁ってるからさ。

 あ、寮ってのは学校付属のもんで、僕が住んでるところね。


 それで、気が付きゃ深夜、それから寝てたらアラ不思議!

 必然的に昼になっていましたとさ、めでたしめでたし」




「めでたしめでたしを最後に付ければ、何でもハッピーエンドになると思ったら大間違いだぞ。


さっき読んだ桃太郎だってな、鬼側にしてみりゃ凄惨たる有様だし、

花坂爺さんだって、瘤取り爺さんだって、悪役を担わされた爺さんは気の毒なもんだ。」




「なに昔話相手に熱くなっちゃってんの?」



「さっき読んだら懐かしかったもんで。

……すまん、話の腰を折っちまった。続けてくれ。」



305 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
05:44:04.28 ID:u7GLEB/s0
「キョンって変な奴だよな、やっぱり」

「俺もそう思うぜ」



「唐突に二人して俺を変人扱いしないでくれ。

これでも至ってノーマルな一般人であることを自負しているんだから。」



「だって変じゃん」




進学校に存在する唯一の金髪野郎に言われてもな。

供述にはせめて理由くらい並べておけ。




「安心しろ、俺も保障しておいてやるよ。二対一の多数決で可決ってやつだ」



「なんだ岡崎、そのニヤリとした笑みは?」



「さあな」



やれやれ。

変人認定的なポジションなんて、微塵もありがたくはないね。



308 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
06:00:32.77 ID:u7GLEB/s0
「さぁ~て、そろそろ教室にでも戻りますかぁ~!」



俺が食い終わのるとほぼ同じくして、


大盛りカレーを見事に平らげていた春原が、意気揚揚と宣言した。



「いちいちオーバーリアクションなんだよ、お前は」




岡崎がすかさずツッコむ。

その岡崎のポジションこそが、本来の俺だとは思うんだけどな。

まあ変な贅沢は言うまい。




「御馳走さんでした」



俺が食器の片付けついでに給仕のおばちゃんに述べると、



「あんまり悪さはしないようにね」




という微妙な気遣いを施されてしまった。

一緒にいただけで誤解されているのかよ。




「そんなんじゃありませんよ、今日は偶々ですからね。俺はただの転校生です」

「そうなのかい?」

「そうですとも」


「まあそうは言っても、どっちにしたって何も変わらないんだけどね。

 じゃあね、また来て頂戴な。岡崎くんと春原くんも一緒にね」




うぃっす、という具合に体育会系のような返答を両名が行った。

この慣れよう。

二人は、学食の常連だということか。



311 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
06:26:34.14 ID:u7GLEB/s0
俺の昼休みがフライングで始まったせいか、

教室へ戻って時計を見ると、時間にはまだ充分の余裕があるようだった。


そんな俺の肩をポンと叩きながら一声。



「御苦労」



振り返ると歩く危険物、杏が腕組みしていた。


腰ほどまでのストレートな髪。左頬側には特徴的な白のリボン。

本人にとっては常態なのだろうが、


常に意志の強そうな眼光と、大胆不敵な微笑を秘めており、

それらが俺にとってはどうにも苦手と映ってしまうのだ。


俗にいう、口を閉じ淑やかにしていさえすれば、可愛いと持て囃されるタイプ。

故に俺は顔を合わせる度に、自身へと強く言い聞かせるのだ。




「そりゃどうも」



当たり障りなく応対し、こいつとは深く関るべきでないと。

こいつは厄介の代名詞なのだと。




「素っ気ないわねぇ、アンタ」

「これが性分なもんで」



本当は言い返してやりたいんだがな。




「ふーん、ならいいけど」

じゃあねぇ~、と軽やかな足取りで教室から出ていった。



何しに来たんだよ一体。


妹の様子でも見に来ていたのか、或いは俺の働きの視察にでも来たのか。

どちらにせよ、俺にとっては迷惑な話であることに変わりない。



316 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
06:53:59.52 ID:u7GLEB/s0
「面倒な奴に目を付けられちまったようだね」



俺が自席に戻るなり、窺っていた春原が呟いた。


蛇足ではあるが、この台詞だけ聞けば格好良く思えるのかもしれない。

しかし杏が俺の傍に居た間、肝心の春原は、


杏から十二分な安全距離を取っていたのがなんとも情けない。

とはいえ、仮に俺と春原の立場が逆だったとしたら、俺も春原と同じことをしていたであろう。




「あいつは戦神の生まれ変わりだから、せいぜい首を刎ねられないように気を付けることさ」




春原が得意気に語るのは、これまで実際に受けて来た仕打ちからくる、経験則なのだろうか。

しかしだな。




「そういうことを軽々ながらも口にすると、危ないと思うぞ?」

「へっ、どうせ聴こえやしないさ」




ここにきて頬杖をついていた岡崎も口を挟んできたようで、

「ほら、よく言うじゃねぇか。壁にナントカって」


その岡崎の二の句を継いだのは春原だ。

「それってアレだろ、壁に耳あり障子に――」



――メアリー……




だが春原の言わんとした内容を改変し、強引に三の句を受け継いだ奴が居た訳だ。


春原の背後に差し迫っていたそいつは続けざまに、低く地鳴る声で宣告した。



「あたしメアリーさん、今あなたの後ろに居るの」




フゥー、と春原の首筋に息を吹きかけ、春原が竦み上がり……。

あとのことは俺が語るまでもないだろう。



320 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
07:14:41.32 ID:u7GLEB/s0
結局、この日にあった出来事の中で、めぼしいことといえばそれくらいなもので、

終礼を交わした後の俺は一人で帰途を辿り、適当に課題をこなし、


一応、抜けていた分の授業内容を取り戻すべく、適当な自習を済ませた。



さてというように、あとは寝るだけとなりベッドに寝転がった俺は、


机の上に置かれた携帯電話を眺めながら今日のハイライトを回想していた。



岡崎が遭遇したという、上り坂に佇む少女。


大人しく謙虚な妹と、その反動の塊のように凶暴な姉。

謎の資料室。

図書室にいた浮世離れな女生徒。

そして岡崎と春原。




なんてこったい。

こうやって考えてもみりゃあ、アクが強い連中ばかりじゃないか。


とはいえ、なんだかんだで大して驚いていない俺も客観的にみればどうかと思うがな。



やれやれ。

どうなることやら。




頼むから面倒ごとだけは勘弁してくれよ?

それさえ起こらなければ、俺は他に高望なんてしないんだからな。






以上のようなことを何度も考えているうち、俺は眠りへと堕ちていった。



373 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
15:42:19.57 ID:u7GLEB/s0
俺に意識があることを自覚した時には既に、

重い、息苦しい、という二つの体感覚に苛まれており、


それらによって俺は、微睡みのなかから強制的に引きずり起こされることとなった。


その原因が何かのかを理解し終わるよりも早く、ボヤけた視界のまま体を起こしてみると、

コロリと布団の上へ転がり落ちた奴がいたもんだ。




家主の猫である。



白をベースに、四足の先や耳、鼻の周りと尻尾などが焦茶色という野良ではあまり見掛けない風体。


スラリと伸びた体躯は上品なシャムネコを思わせるが、その性格は至って乱暴であり、


ここで世話になる際、一緒に連れて来ざるを得なかったシャミセンは連日のように追い回されている。

ちなみにメス猫だ。



「みゃぅー」




なんて具合に掛け布団の上で、のびっと四肢を張り、欠伸しつつの気の抜けた鳴き声。


すると俺の布団のなか、足元の辺りに潜り込んでいたシャミセンがビクリと震えたのが伝わってきた。


やれやれ、お前達動物界でも引っ越し騒動は大変なんだな。



「ほれ」



猫の前に人差し指を突き立ててみる。


慣れていれば摺りよってくれるのだが……



「みゃうん」




ツンと鳴かれたかと思うと、ピシャリと猫パンチによって拒絶の意を示された。

どうやらまだ住人としてはまだ認められていないらしい。


それでも、こうやって近づいてくるようになっただけで進歩ってことなのかもしれないが。


まあ、この家の住人として認められるのが、果たして良いことなのか悪いことなのか、それも定かではないがな。



375 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
15:59:51.26 ID:u7GLEB/s0
「おはようございます」



身支度を済ませ階下へ降りるなり、やんわりとした声に包まれた。

家主のものだ。




「おはようございます」



俺が今ひとつ心を許せないといえど、


挨拶を無視したり等という、子供染みたあからさまな態度を取るようなことは当然しない。

そもそも世話になっているのは事実だからな。


客観的に一般論を以って論じてみりゃ、こうやって警戒する俺の方が不審ってもんだ。



「朝御飯、もう出来ているわよ」


「すみません、何から何まで」

「いいの、気にしないで。賑やかなのはいいことだと思うから」



頬に手をあてた婉然たる笑み。


良心をそのまま具現化したような人物像。

それを前にすると俺の心も僅かに揺らぎそうになるが、やはりスタンスを変えようとまでは思わない。


なにより俺自身が、そう思い込もうとしているからだ。

注意を払うべきだと。



「お弁当は、必要ないの?」


「ええ、学食の味も見ておきたいもので」



というのが適当に並べたてた御託であることは自明だ。


あまり深入りすべきでないとの考えから、この受け答えが常と化している。



377 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
16:11:30.39 ID:u7GLEB/s0
「そう」



家主が漏らしたその一言には、どのような意味が込められているのか。

言葉としてよりも表情で語る部分の多い人なので、


俺にとってはどう受け取るべきなのかが今一つはっきりしない。

曲解すれば、見せかけの笑顔、ともとれる。


いや、それは受け取る側である俺が捻じ曲がっている所為なのだろうが。

と突然、階段を駆け下りてくる足音。




「おはよーございますっ!」



次いでの気勢のいい挨拶は、俺の妹のものだった。



「あら、おはよう」

「よお」




俺と家主で返す。

それから三人での朝食の席となり、当たり障りのない会話を肴に箸を進めていき、


やがて俺は登校するべく家を出る形となった。

そうそう、日課のように妹へ中学校の様子を尋ねたところ。



「だいじょーぶだよ」




と満面に笑っていたので、

相変わらず我が妹は上手く世を渡っていけているのだと俺は安心した。



380 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
16:28:55.75 ID:u7GLEB/s0
蛇のように矢鱈めたら曲折している登校路を辿っている最中、

ふとこんな考えが過ぎった。




俺が前住んでいた街中と比べれば、相対的にこの街はかなりの田舎に値する。


故に人の手が入りきっていない部分が多く、言ってしまえば自然が多い。

そこかしこに林があり、鬱蒼と木々が茂った場所が存在しているのだ。




もし、これらをすべて斬り払って直線的な道に挿げ変えれば、

登校に掛かる時間を一体どれだけ短縮できるのであろうか。


これを毎日往復するのだから、合計時間に換算すればそれなりに浮くはずである。



大体、一往復に掛かる時間が……




と計算し始めたところで馬鹿馬鹿しくなって俺は思考を停止させた。

朝っぱらからエネルギーを無駄遣いするのも癪だし、


計算したところでどうにかなる問題でもないのだ。

それにここが如何に田舎といえど、何れは発展していく運命にあるのは確実。


現に街のそこかしこでは道路舗装だとか区画整理が目に付くし、


これから何十年後かには、俺の街となんら変わらない程度にまでにはなるのだと予想もできる。




もしもその時の俺が暇だったとしたら、その時に実測すればいいだけさ。

恐らく、やらんがな。




考える事がなくなったので溜息交じりに携帯電話を取り出すと、

手持無沙汰を埋めるように開いてみた。


光が灯らない画面には、代わりに俺の顔がぼんやりと映り込んだだけだった。



383 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
16:40:33.06 ID:u7GLEB/s0
朝のホームルーム後、一校時目までの空いた時間のことだ。

珍しくも不良二人組の登校(それでも遅刻だが)を認めた俺は、ぶしつけにも訊ねていた。




「こういうことを言うのもアレだが、お前達って良くこの学校へと入れたもんだな」




本当に何という不躾な質問をしているんだろうな、俺は。

まだ出会って三日ばかりしか経っていないというのに。


だがしかし、これくらいならば許されると思えてしまうのも妙だ。

現に、春原は笑いながら回答してくれたのだから。




「ぶっちゃけた話、僕と岡崎は馬鹿だからね。

 だけど、うちは進学校であると同時に、割かし部活動でも強豪が揃っているんだよ」




そうか、改めて考えてもみればこの学校は私立校じゃあないか。

つまりは公立校に比べて潤沢な資金を自由に動かせる為、施設の拡充を賄える訳だ。


私立校ってのは言ってもみれば一般的な商店と同じで、

いわば金目当てに経営している、というと些か語弊があるのかもしれないが、


ともかくそうやって特色を付けることで生徒、つまりは客を呼び込み次へと繋げていく性質を持っている。




だからスポーツだけに限らず、何らかの特色を持っている場合が多いのだ。

ってことはだ、

「お前達って、スポーツ特待生とかなのか?」


「御名答」



人差し指をピンと立てた春原。



「まあ、速攻で辞めたんだけどな」




それに続いた岡崎が、流れを断裁した。

なんだ駄目じゃないか。



388 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
16:53:01.33 ID:u7GLEB/s0
とはいえ、これで朧げながらも浮き上がってきたように感じられる。

この二人が、こうにまで自堕落な原因と、周りから忌み嫌われている理由が。


だから俺は言った。



「そりゃまあ、推薦なりで入学しておいて辞めちまえば教師陣からも疎まれちまうわな。

 だけど何があったんだ?


 今は部活をやっていなくとも、元々特待生に選ばれるくらいだったんだから、

 運動も出来たんだろうし、それなりにスポーツも好きだったんだろ?」




ここまで訊ねた時だ。

不意に俺は、空気が重くなったような錯覚を覚えた。

だが、春原はいつもの調子を保ったままで続けていく。




「ま、大したことじゃないさ。

 僕はサッカー部だったんだけどね、縦繋がりがあまりに下らな過ぎたんで辞めてやったんだ。


 ただ、そんだけ」



素っ気なくだ。

となると、次は自然と岡崎に視線が移ったのだが……。



389 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
16:53:23.60 ID:u7GLEB/s0
「俺の方も大した話じゃない。春原と似たようなもんだ」



やや遅れての回答は、吐き捨てるようなものだった。

すぐさま春原が補足する。




「まあ、岡崎はバスケをやってたんだけどな。

 そこもなんというか縦がな、その、面倒くさかったんだよ、特に」




春原の曖昧に返答する姿を見て、俺はこの質問を軽々しく口にするべきでなかったと反省した。

たかだか顔見知りに毛が生えた程度だというのに、


愚行にも俺は抱いてしまっていたのだ、慢心を。完全に失態だ。


「すまん、二人とも。」



「いいっていいって、気にすんなよ」




謝罪の意を示した俺に、春原は相も変わらずだった。



392 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
17:04:03.87 ID:u7GLEB/s0
返す刀で春原が訊いてくる。



「そうだ、そういやキョンはどうなんだよ?」

「何がだ?」


「お前も、前の学校で何かやってたりしなかったのか?

 まさか顔に似合わず超有名選手だったりしてなっ!」



顔は余計だろうが、




「そんなんじゃねぇよ」

「ま、そうだとは思ったけどね」

「有り来たりな文芸部だ、単なるな」




ふーん、と春原がしたり顔で笑い、続けた。



「まあ、なんとなくだけど口調に出てるからな」

「溢れ出んばかりの知性がか?」


「馬鹿か、面倒くささと小難しさがだよ。

 時々、言葉の意味がわかんないしな」



「そりゃお前の知能が足りてないからだ」


との辛辣な意見を突き刺したのは、岡崎である。

「なら、今度からは読み仮名でも振っておくようにするさ」

俺も続ける。




「一言も二言も多すぎるんですけどねぇ、二人とも!」

春原は激高し、

「はぁ……キョンが来てから、岡崎が二人に増えたみたいだよ」




そう零した。



401 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
17:18:27.35 ID:u7GLEB/s0
「あのぉー……」



控え目に窺う声。

ともなれば、それは藤林なわけだ。


どうやら、今朝方のホームルームで配られたプリントを手にしている。

健気だねぇ、まったく以って今どき、貴重な人種だよ。



「ああ」




岡崎が面倒に受取り、机の中へと捻じ込んだ。

それを目にした藤林の表情には、少しばかりの影が差したように見えた。




「それ、保護者へ向けての内容なので、一応は家の人に見せておいてください」

「……」




沈黙し表情の硬い岡崎を前に、おっかなびっくりの藤林だが、やはり彼女も退かない。

やがて岡崎は根負けしたのか、

「わかったよ」


またも頬杖で承諾の意を示した。

これで藤林も席へ戻るかと思いきや、さらに続けていた。




「でも、安心しました。二人とも、ちゃんと出てきてくれたみたいで」



まあ、こいつらが今日に限って早めに出て来たのは、


本日提出しなきゃならん数学の課題対策として、俺のを写すためだったんだがな。


昨日俺が言った「今からでも間に合う」という話の弾みで、勉学について僅かにだが助力する、

という旨を伝えていたからこうなったんだが。




ま、やり方はアレにせよ、課題を提出する意志を見せただけ良しとするか。

「補講が嫌だから」という目先からの逃避が動機であるにせよな。




407 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
17:33:40.27 ID:u7GLEB/s0
一校時目。

まだ温まりきっていない静かな空気のなか、

教師が淡々といった様子で知識を授けようと画策している。



らしい。




らしいというのは、岡崎、春原の両名が居眠りしているというのに、

当の教師は注意すら行わず、居ないものとして扱っているから、


俺の眼には少なくともそのように映ったのだ。

察するに、この学校で永らく過ごしてきた人間からすれば、


それが当然のようにそこに在るべき風景の如く、

意識しなければ視認できないように見えてしまうのかもしれない。




ちょうど、この街へ来たばかりの俺が、風景の味の違いに気付かされたようにな。



こんなことを思案したところで仕様のないものであるが、


どうにも勝手が違っている。違いすぎている。

俺がもといた学校とはな。




岡崎達に限らず、様々な事象が、良い悪いは別として、何もかもがだ。



「はぁ……」



また溜息が漏れちまった。


考えているうちに元の学校での担任教師、岡部の顔を思い出したからだ。


あいつならばきっと、こいつらを叩き起こして上で、ローリングソバットを喰らわせていただろう。


なんだかんだで、転校する際には俺も世話になったからな。



その計らいに対し、改めて礼を述べなければならないと気が付いた時には、


俺がもう街を離れてしまった後だったが。



437 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
19:18:15.02 ID:u7GLEB/s0
で、今日こそは災難を勘弁してくれという俺のささやかなる願いも虚しく、

狙い澄まし、嘲笑うかのようにこの学校では騒乱というものが巻き起こる訳で。


一校時目が終了した直後の休み時間のことだ。



「おい……なんかヤバいのが来てるぞ……?」




クラス連中が騒ぎたて始め、一様にベランダへと飛び出していった。

まあ、そうなるだろうな。

こうにもバイクの排気音が鳴り響き、


ベランダ側に面した校庭を縦横無尽に走り回られてはな。



「面白そうなのが来たみたいだ」




気色を得た春原に続き、俺と岡崎もベランダへと移った。



「1、2、3……」




春原が指を折ってバイクと、それに跨る人数を数えている。

俺も心内でざっと数えた。


どうやら狼藉者の数は、十に満たない程度のようだ。



442 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
19:30:10.23 ID:u7GLEB/s0
バイクの奴等は何かを叫んでいるらしいが、

自身が生みだしている騒音に掻き消されてしまっては、聴き取るのも不可能だ。


伝えたいんだったらエンジンを止めりゃあいいのに。

でなけりゃ、プラカードなりカンペなり用意してこいよ。



「まったくだな」




岡崎も俺の意見に意を連ねたようだ。

しかしこうなると厄介、教師陣が出てくるのを待つほかあるまい。


俺にはどうすることも出来ないからな。

そう踏んで、傍観を決め込もうとした時だ。



「おおっ!」




という歓声が沸いた。

同時、校庭へと続く道のりを、

一人の女生徒がストレートの髪を揺らしながら堂々と歩んでいた。


BGMとして威風堂々でも掛けてやりたいくらいのその様。



「智代だ、智代が出て来たぞ!」



智代……?


あいつの名前か?

いや、そんなことはどうだっていい。

一人であんな奴等の輪の中に飛び込んだりすれば、危ないに決まっている。


まさかダンスの誘いにでも来たわけじゃあないんだから。



「おい!」




すぐさま俺が二人の肩を叩いて意志を伝え、俺達は階下へ向かって走り出した。



449 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
19:38:26.45 ID:u7GLEB/s0
走りながらの道中、春原が笑った。



「やっぱ、面白いものは特等席で目にしなきゃなっ!」



アホか。


そんな下らん野次馬根性で動いているわけじゃない。



「だったら、どうしてキョンは?」



だったらどうして。


その言葉の答えに、俺は窮した。

駆け付けたところで俺にどうすることもできないのは事実。


仮に出来たとしても、それ即ち面倒事へと首を突っ込むことになるだけだ。



「知らん」



結局、それが答えだった。


そもそも、女性一人が痛めつけられる所をただ傍観しているのも癪だしな。

それが動機ってことでいいだろ?




「キョンは真面目くんだねぇ~」



春原が茶化すように笑い、




「ま、こいつは優等生だからな。課題の答えを写すのすら難しいほどに」



岡崎に皮肉られた。

すまんな、字が汚くて。




456 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
19:46:51.48 ID:u7GLEB/s0
それでだ。

俄かには信じ難いことになるんだろうが、

俺達が一階の校舎から飛び出した時には、既に片付いていたのだ。




「ありゃ?」



春原が素っ頓狂に首を捻る。

もちろん俺もだ。

校庭を走り回っていた人間達が砂地へと寝そべり、


バイクは乱暴にも倒れ伏してカラカラと車輪が回っている。



ただ一人。



縁を描く様に並び、崩れおちた狼藉者達の中心部で、


先程の女生徒が髪を掻き上げては腕を組み直していた。



グラウンドで体育に勤しんでいた生徒達も、隅に避難したまま唖然呆然。


いや、歓声を控えているといったほうが正しいのかもしれない。



「とにかく、行ってみよう」




春原が納得しなさそうに先導し始めたので、俺もその背中を追う。



459 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
19:56:12.58 ID:u7GLEB/s0
といっても、この状況下であの円の中心部へと立ち入る勇気はない。

俺にも恐怖心はもちろんある。


だがそれ以上に、全校中の視線を集めたあの中へ、

果たして俺が割入ってもいいのか。



答えはノーだ。


とのことで、情けなくも俺は他ギャラリーの中の一部として混じった。



「へっ、面白そうじゃないか」




春原が不敵に笑っては拳を鳴らし、その円の中へと歩みだした。

おお、流石は我が校切っての不良だ。

真面目くんの俺とは出来が違うな。


だが俺が感心し掛けたのも束の間、



「てめぇ……」



倒れ伏していた狼藉者の一部が起き上がった瞬間、


春原は両手をポケットに突っ込んでクールにUターンを決め込んでいた。



「お前って、毎度ながら期待を速攻で裏切ってくれるよな」




俺は嘆息した。

岡崎はというと、特に何の感情もないように無言のままであったが。



465 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
20:10:35.59 ID:u7GLEB/s0
対峙。

女生徒と、恐らくは狼藉者グループの頭領である体格のいい男。

互いに一体一、サシでの勝負だ。



「舐めやがって」




男が吐き捨てる。

女生徒は風で棚引く腰ほどまでの髪を払うと、凛とした声色で断言した。




「もうやめておけ。また痛い思いをするだけだぞ」



それによって俺の思考は、益々混迷の一途を辿っていった。


これ、普通に考えるとギャラリー、つまりは俺達が止めに入るべきだよな?


俺も一人では無理だが、少しでも人手があれば多勢に無勢という姑息な手段が選択可能となり、


無言の重圧なり、それを応用して僅かでも尽力できればとの思いで算段を立てていた訳なのだが。



しかしなんだこりゃ?




ギャラリー達の期待に満ちた眼差し、もとい、勝利を確信したような表情は。



ってことはやっぱりあれか?


あの女生徒がたった一人で、ここまでやってのけたってことになるのか?



かのように、俺がどうするもこうするも出来ないでいるなかで、


頭領の男が鋭い唸り声を上げたかと思うと、砂煙が渦巻くように地を蹴った。

475 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
20:29:47.41 ID:u7GLEB/s0
落雷だ。

遥か上空で発光した直後には、地へと到達しているあの現象。

例えるならば、あれに近かった。




男が向かってくるという意志を見せ、一歩目を踏み出した途端、

女生徒が一陣の疾風のように低い姿勢でその懐まで潜り込み、


溜めに溜めた脚力を以って飛翔――男の鳩尾に膝蹴りが炸裂していた。



電光に撃たれたように動きを止めた男の背後に女生徒が流れ込むと、


絡め取った腕を捻り上げ、妙な武術なのか足払いと共に投げ落とし、

グラウンドの上へ叩き付けられた男は大の字を描いて、動作と威勢を失ってしまった。




その立ち合いが幕を下ろした後で、俺は一連の音を認識できたのだ。



「今の、なに?」



俺に聞かれてもな。


これには流石の岡崎も反応を示したようで、



「へぇー」



という平坦な一句を詠みあげていた。


お前はもう少しでいいから、何かを述べるべきだと思うぞ。



482 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
20:50:07.66 ID:u7GLEB/s0
「こらー! 何やっとるんだー!」



今さらながらに登場した教師陣。

その、片が付くまで待っていたのでは?


と疑わざるを得ないほどのタイミングに俺は辟易としながらも、

狼藉者達が再び立ち上がり女生徒へ一挙に襲いかかる、


というまさかの事態に備えて、飛び出せる態勢だけは崩さなかった。

教師との共闘ならば、俺だってノミ程度の役には立てるはずだからな。




だがそれも憂慮だけと終わった。

もはや頭領が倒れ、こいつには敵わないと理解するなり、


士気の下がった狼藉者達は互いを抱え起こしてバイクへと跨って、



「いつまでも良いツラしていられると思うなよ」


捨て台詞を残して散っていった。

ようやくして、抑えられていた衝動が爆発したのだろう。



「智代さぁ~ん!」


ギャラリーからの歓声が、そこかしこで沸きあがった。遠く離れた校舎側からもだ。



「一体、何者なんだあいつは?」


俺がそう漏らしたのを、隣に居た観客の女子に拾い上げられた。



「誰って、二年生の坂上智代さんですよ、知らないんですか?


 一年のわたしでも知ってるくらい有名なのに。

 才色兼備、文武両道、おまけに人望も厚いという凄い方ですよ!


 この春から転校してきた人なんですけど、数日にして有名人になっちゃったんですからっ!」



熱の入った紹介ありがとう。


しかしこりゃあ、ひょっとすると女生徒から色んな意味で慕われてそうだな。



488 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
21:09:28.31 ID:u7GLEB/s0
事なきを得たのであれば、俺がここに居る理由もない。

騒ぎ出した生徒達と、それを抑え込む教師陣。

そして戦場から悠々と帰ってくる坂上。




それらを認めたところで、俺はこの場からの退散を二人に向け提案した。

もうすぐ授業も始まるしな。



「ま、そうだな」




岡崎も生返事で踵を返したが、

春原だけは依然、坂上を睨みつけていた。

俺は訊ねる。



「どうしたんだ?」




けっ、と春原が毒づいてみせた。



「気に入らないね、ああいうの」


「お前はターンは上手いが、坂上とは実力が違いすぎるからな」

「おいキョン、僕のことを何か勘違いしていないかい?


 巷では眠れる獅子、春原陽平と噂されているけど、実はこの僕のことなんだぜ?」



通り名で本名を語ってどうする。




「へっ、今に覚えてろよ」



どうやら、春原の中に眠っていた要らぬ部分を刺激してしまったらしい。



493 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
21:18:23.19 ID:u7GLEB/s0
二校時目に奇跡が起きた。

その退屈な授業中、俺の陰でせっせと課題の複写に励む岡崎と、

腕組みし、しかめっ面一辺倒で微動だにしない春原。




それぞれが授業中に起きていたのだ!



……って、これくらいで感動しそうになってどうするよ、俺。


どことなく授業を仕切っている教師の顔にも満足感が窺えるものの、

残念、それは貴方の思惑違いですよ。


俺が思うに、要らんことばかりを考えている人間どもですからね、こいつらは。




まあ、俺も先程の出来事が頭の中を駆け巡ってしまい集中できないんだから、

こいつらと全く以って同じなんですが。




そして俺の勘繰り通り、二校時目の休み時間には春原が拳を振りあげたのだ。



497 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
21:31:29.74 ID:u7GLEB/s0
「わかったぜ、岡崎にキョン!」



何がだよ?



「トリックだよ、トリック」



急に何を言いだすんだ、お前は?




「女が男に勝てるわけないでしょうが。だったら答えは簡単だ。

 あれは智代が人気取りの為にバイク野郎どもと示し合せていた、見世物なのさ!」




早くも智代という下の名前で呼ぶ春原の馴れなれしさが、微妙に煩い。

現に、岡崎もさも面倒そうに課題を写す手を止め、




「黙ってろ、俺はいま勉強中なんだからよ」



顔に似合わないどころか漫才のネタなのかと揶揄したくなるような言を、


まあともかく、そういう主旨の冷たい返答をしやがったわけだ。

となると今度は俺に絡む絡む。


妙に磁力を高めたせいで、向き合わせてくっつけると取れなくなる強化磁石のように、


トリックだのなんだのと、俺が顔を逸らす方向へ回り込んでは力説一色。



なんという面倒すぎる性格をしているのだ、こいつは。


休み時間だというのに却って疲れてどうするよ。



513 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
21:48:24.63 ID:u7GLEB/s0
三校時目の授業中にまたもや唸っていた春原は、

チャイムが響いて自由が利くようになると勢いよく立ちあがった。


すると俺に嫌な予感が走るのだ。



「行くぜ、二人とも!」

春原に手を差し出される。



「おう、行ってこい」


「帰りにコーヒー牛乳な、パックのやつ」

俺、岡崎の順で送辞を与えた。



「冷たすぎるだろお前等!」



いい返し方だ。


そういう所は割と好きだぜ。



「ふざけるなよ、僕達は一挙両得だろ!」




多分だとは思うが、一蓮托生無と言いたかったんだろうな。

俺に言い換えさせるなら、一髪千鈞を引きそうな悪寒を感じてはいるが。




「ねぇ~ねぇ~岡崎ぃ~キョン~」



あーもう、うざったい奴だな。




「よし、春原を頼んだぞ。俺も春原に付き合ってやりたいのは山々だけど、

 どうにも課題で手が離せないので仕方がなくてな……」




おい岡崎、なんだその尤もな顔と言い訳は。

なあ岡崎、ちょっ、春原待て、おい引っ張るな――!



529 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
22:03:29.71 ID:u7GLEB/s0
「じゃあなー、お前等ー」



岡崎が完全に投げやがった。



「って、お前は来ないのかよ!」




一応ながら春原もツッコんでいるが、既に同行の獲物として俺は捕獲されているので、

その顔には嬉しさが一杯に拡がっている。




くそっ、なぜこうなる……!



俺の右手が教室扉から引っぺがされ、最後に目撃できた室内の光景は、


トランプらしきものを携えて岡崎の側へと歩み寄っていく、藤林の姿だった。



春原の奴は俺のネクタイを掴み、


まるで鵜飼のような強引さでぐいぐいと引っ張り続けるので、

俺は抗いようもないまま校舎内で通り過ぎていく人々の視線を、存分に集めてしまった。




しかしだな、今さらながらではあるが。

春原が腕っ節を誇っていたのは、強ち冗談でもないらしい。


こいつは俺より数センチ程度は身長が低いのだ。

体格もガッシリというわけではなく、むしろスリムな方であろう。


なのに俺はこういう現状なわけだ。

やはりスポーツ特待生になれたほど長い間、培ってきたアドバンテージは、


部活動を辞めてしまったあととなっても簡単には立ち消えないようだ。



「智代ちゃん何処?」




春原は、二年の生徒達を捕まえて所在を尋ね、

どうやら彼女がB組であるらしいことを突き止めたようで――



538 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
22:14:50.48 ID:u7GLEB/s0
「なんだお前達、わたしに何か用か?」



春原の金髪を目にしてだろう。

びくと怯えた案内役、B組の男子生徒を春原が解放すると、


代わりに目的となる人物が御登場なすったのだ。

ちなみに案内役には俺から謝っておくと共に、


春原という奴の駄目駄目な人間性を吹き込んでおいた。



「ちょっと面を貸してもらうぜ」




そうこうしているうち、春原が悪役っぷりを如何なく発揮し始める。



「そんな暇はない」



智代、一蹴。




「残念だったな春原。帰ろうぜ、坂上も忙しいところ済まなかった」



俺は春原の肩に手を置いてまっこと遺憾の意を演出してはみたが、


春原のやつも「ハイそうですか」とはいかなかったのだ。



「人気取りも大変そうだな、智代ちゃんよ?」




その一言で身を翻した智代がさらに反回転を決め、



「どういう意味だ?」



艶のある髪をさらりと揺らした。


無論、それに伴った鋭い眼光もだ。



545 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
22:28:39.41 ID:u7GLEB/s0
なんでこうなっちまうのかね。

人は争わなくては生きていけないのか。

嗚呼、無常。




などと俺が、使い古された演出で悲観に浸りたくなるほどに、この場の空気は最悪だ。


とはいえ、火が点いた春原の奴はもう退いてくれそうにはない。

だったらば、春原の足りない言葉で下手に話が拗れるよりも、


俺が代わりに単刀直入として話をつけるのが得策である。



「手を煩わせて申し訳ないとは思っている。それで実はな――」




春原のトリック論やら、坂上に喧嘩を吹っ掛けようとしている旨、

延いてはこいつが馬鹿であるということを掻い摘んで説明していった。




「仕方のない奴だな」

「その通り、こいつは仕方のない奴なんだよ」



智代の呆れに俺も乗ると、




「ちょっと、キョンはどっちの味方なんですかねぇ!?」



と来たもんだ。

俺は言ってやったね。




「女性の味方」

自分で言うのもなんだが、今の俺って割かし様になっていないか?



「お前も仕方の無い奴だな」




しかし智代は嘆息し、我に返った俺は眉間を必死に押さえるのだった。



557 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
22:44:38.50 ID:u7GLEB/s0
人気のない場所へと移動、となれば旧校舎方面だ。

実際、望みどおり人気もないようだしな。




「あと5分程度しかないんだけど、大丈夫か?」



ガラリと空いた廊下で対峙した二人に、俺は問うた。



「問題無い」




智代は自信たっぷりだ。

いや、自信という意志すら見せずに、「いま、微風が吹いたかな?」程度の変化具合。


元スポーツ特待生の金髪に絡まれているというのにこの表情なのだ。

こいつは鋼の心臓でも持っているのか?




「僕も問題ないね。降参するなら今のうちだよ?」



「こちらも意気揚揚、心身充溢。

 女性相手にその心意気、男として最低の人間だな。 」



「うるさいよキョン」

「悪かったな」




智代は髪を纏めるべくの黒色カチューシャの位置が気に入らないのか、

俺達のやりとりなど興味なさげにお色直し中であり、やがて。




「やるのは構わない。しかし面倒事にするのはやめて欲しい。

 言い訳の為にも、お前の方から掛かってきてくれ。証言は頼んだぞ、そこのお前?」




坂上の眼光を俺が受け止めて頷き、それが合図となったわけだ。



571 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
23:03:49.13 ID:u7GLEB/s0
春原とは、勝負事に措いては一切手を抜かない奴らしい。

俺の方を向いて気が逸れていたであろう坂上を認めるなり、


弓を引くが如く、右拳を引き絞りながら駆け寄って行った。

まあその際、



「隙ありぃ~~~!」




などと意味もなく叫んだことで、隙を衝いた意味がなくなったわけではあるが。

ともかく春原の拳は容赦なく坂上の顔面めがけて邁進していき、


俺ですらその容赦の無さに寒気を覚え始めた頃合いのこと。



坂上が旋風を巻いた。




春原の拳を自身の掌で掴むように受け流して軌道を逸らし、くるりと一回転。


相撲でいう引き落としに近い技によってバランスを崩した春原が前へとのめり込み、

身長差があるはずの坂上が春原の背中をとる形。




間断なく、そして一切の無駄な動作もなく、飛び上がっていた坂上が、


竜巻のように中空で転回し、鎌のようにしなった踵を春原の首筋に叩き落としたのだ。




奏でられたのは表現するのも嫌になるような、鈍く重い音だった。



それから二歩、三歩……恐らく十歩程度だろうか。


春原が妙な体勢で有らぬ方向へ走って行ったかと思うと、

足を滑らせた子山羊のように頭から転げ、そのままでんぐり返って地面へと仰向けに倒れ伏した。




ちょっと待てよおい、これってまさかとは思うが……



「ヤっちまったんじゃないのか?」



576 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
23:20:47.82 ID:u7GLEB/s0
「大丈夫だ。手加減はしてあるし急所も外してある」

「しかし見ての通り、ピクリともしないぞ?」


「当然だ。起きあがって粘られでもしたら、授業に遅れる」



数分立てないようにしただけだ、との診察結果を申し渡された。


しかし相変わらず華麗な身のこなしだな。

先手をとった春原の攻撃を防ぎ、そして崩し、さらに反撃。



この間、僅か三秒。




いやいやこれは比喩などではなく、

間近で見届けていた俺ですら状況がよく掴めなかったのだ。


実際、「くるりと一回転」が本当に一回転だったかと四択で問われれば、

俺は解答に躊躇し、オーディエンスなりテレフォンなりを求めることだろう。




「では、わたしは失礼する。

 お前からもこいつに良く言い聞かせておいて欲しい」

「オーケイ、手間取らせて悪かった。


 暴力事件として提訴された折には、この俺が証言台に立つから安心しておいてくれ」




ずっと無表情に近かった坂上だったが、ここにきて控え目にも頬を綻ばせた。



「面白い奴だな、お前は」


「これでも普通であるように心がけているんだけどな」



やがて俺は、風のように去って行く坂上の背を見送っていた。


切れの良い眦、凛とした声。正に清く正しく美しくという評語の具現化形。

あくまでそれは表向きであり、その実は誠に猟奇的。




やれやれ、またクセのありそうな奴と出合っちまったぜ。



581 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
23:31:51.44 ID:u7GLEB/s0
「おい、いい加減に起きろ」



床でオネンネでしている春原のモミアゲを引っ張ると、身を捩らせて反抗の意を示したので、


どうやら春原にはまだ命が宿っているのだと、少しばかりではあるが安堵を覚えた。



で、またもやだ。




「あー……鳴っちまったじゃねぇか畜生……」



四校時目、授業開始のチャイムってわけだ。


こうなると教室へ戻り辛くなることは、前日学んだばかりだというのに。



しまったもんだ。


温情を捨て、春原を近くのロッカーにでも隠匿し、俺だけでも先に戻るべきだった。



「はぁ」



何度目だろうな、俺のため息も。


ここ三日だけでひと月分を使い切りそうだ。



582 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
23:33:50.13 ID:zg7Aet9y0
【レス抽出】

対象スレ: キョン「ここが私立光坂高等学校か…」

キーワード: やれやれ



抽出レス数:7




大丈夫 まだまだだ



588 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/10(水)
23:50:48.65 ID:u7GLEB/s0
春原が目を覚ましたのは、それから優に十分後のことだ。

結局、俺はこいつを置き去りにする事が出来ず、


取り返しが付かなくなり始めた時間帯まで看病してしまった。

坂上が加減はしたと言えど、もしもの場合も考えられる。


容体が急変して息を引き取ったりなんかすれば、

俺だって寝覚めが悪いもんだし坂上にしたって気の毒なものだ。




そうだ、あんなに優等生で生徒の鏡のように慕われている人間が、

こんな一方的な不幸によって災禍の中へと呑み込まれるなんて間違っている。




ああ、間違っているさ。

自分が原因ならまだしも、一方的で避けられない不幸なんてな。



「どうしたんだ?」




春原はようやくして上体を起こせるようになったらしく、

今一つ優れない声と同時に首を捻ってみせた。



「別に何も」


「なんか怖い顔してなかった?」

「お前の所為で授業に出遅れちまったからだ」



ほどなくして春原は立ち上がると、こう言いやがった。




「油断してたぜ」



どこをどうみりゃそんな口が利けるんだよお前は。

女相手に不意打ちを狙っていたくせに。



591 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/11(木)
00:00:13.25 ID:aPAdbmbY0
「それで、どうするんだい?」

「サボる」



思わず即答してやったね。

こうなりゃもう、ヤケってやつだ。


それに春原と二人で教室に戻ったりなんかすれば、

必然的にその理由を問われ、春原があらぬこと――坂上との決闘だが、


を滑らせてしまう恐れがある。



忌むべき事態は、避けねばなるまい。

との考えによる俺の機転だったわけだ、先の一言はな。




「お前もだいぶ、板についてきたんじゃないのか?」

「なにが?」

「僕達の世界で生きる術がさ」




笑い掛けるな気色悪い。



「そうカリカリすんなって、いいじゃないか授業くらいさ」

「どこがだよ」


「偶にはパァーっと気晴らしするもんだぜ、真・面・目・くん?」



うぜぇ。



「で、どこで時間を潰そうかねぇ?」


「だったら俺は、昔話シリーズでも読破してやるよ」

「お、いいねぇ!」



着いてくるのかよ。



598 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/11(木)
00:13:29.34 ID:aPAdbmbY0
じゃあ移動するか、と俺達が踏み出そうとした時だった。



ガタン!

という物音が聴こえたのは。



「なんだ今の音?


 結構近かったみたいだけど」



春原が辺りを見回す。

俺も同様にしてはみたが、探るまでもなく廊下に人気など皆無だ。


というよりだな、



「この中から聴こえなかったか?」



この中というのはつまり、空き教室のことである。


文字通り使われなくなってしまった教室のことだが、

椅子や机などはそのまま、俺達のクラス同様に並べられているはずだ。




摺りガラスで仕切られた窓。

そして閉め切られた出入り口。



いずれにせよ、ここからでは窺えない。


室内に何かが、あるのだろうか?



611 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/11(木)
00:27:33.64 ID:aPAdbmbY0
鍵は開いていた。

そりゃそうさ、昨日俺が岡崎を捜索しにここへ来た際にも空いていたんだからな。


ほどなく、先陣を切った春原の手によって、滞りもなく扉は開かれたわけだ。



「んー……特に何もないようだけど」

「入口を塞ぐな」


「おう、ごめんよ」



春原を追いやってから俺も室内への進入を果たしたが、結局はこう言ったのだ。



「そうだな、何もない」




昼時の温かな光が、やんわりとした日溜りの空間を創り上げていただけだった。


緩やかに熱せられた空気と、年季の入った室内用具が醸し出す独特の懐かしい臭気。


それらすべてが見事に調和し、あまりにも相俟って俺へと訴えかけてきたため、



「この教室って昼寝するには良さそうだよな」




なんて一端にも口走ってしまった。

今のは無意識下での失言というものだ。

春原なんかに影響されるな、しっかりせねばならんだろうよ。




「うーん、あと何かがありそうだとすれば……」



頭を掻きつつの春原が教室後ろ側へと歩み寄り、




「ここくらいかねぇ?」



ピンと掃除用具入れを指差し、俺に疑問顔を向けてきた。



613 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/11(木)
00:37:28.30 ID:aPAdbmbY0
「なんでやねん」



俺は関西弁でツッコんでしまった。

だって考えてもみろよ、




「そんなところに何があるっていうんだよ」

「いやぁ、案外そうでもないかもしれないぜ?」



不意に、春原の顔色が一変した。


掃除用具入れのノブに両手をあて、

そのノブ位置が低い為にへっぴり腰という何とも情けない姿ではあるが、


横向きなまま俺へと向けられた春原の表情は、

今まで俺が目にしたことがないほどに真剣さで塗り固められていた。



「どういう意味だ」




情けないことではあるが、思わず俺もその表情に誘われちまったね。

すると春原は低い声を以って呟き、続けざまに語り出したのだ。




「この学校に伝わる伝説――」





――人食いロッカー。



618 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/11(木)
00:52:28.05 ID:aPAdbmbY0
「その昔ね、この学校に一人の生徒がいたのよ。

 でね、それでね、その子はとってもお利口で優秀なんだけど、どうにも好き嫌いが多くってさ。


 あ、好き嫌いってのは食べ物のことだからね。

 鯛焼きとかイチゴサンデーとか牛丼とかアイスとか―― 」



「なんでそう例えに向かなそうな食べ物ばかりを挙げるんだ?」



「うるさいよキョン。

 せっかくノッてきたんだから、黙って聴いていてくれよ。」



「すまん」



「とにかく、給食だよ。

 困るのはそう、皆と食べる給食の時間なんだよ。

 選べないからね、自分じゃ選べないからね?

 運ばれた奴は食べなきゃ駄目じゃん、残したらアレだよ、干されるよ?

 その子は優秀な生徒だって思われてるのに掌一転、カラッカラのペラッペラに。


 それはいけない。それは嫌だ。

 当然、思った訳よ。」



「ここは高校だろ、なんで給食があるんだ?」




「うるさい。三分も掛からないんだから口を閉じていてくれよ。

 それともあれですかい?

 アンタは常に喋ってないと溺死しちまう鮫ですか? 

 え、魚類なんですか、えぇ!?」



「すまない、俺が悪かった。もう喋らないから気のすむまでやってくれ」





621 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/11(木)
01:02:18.15 ID:aPAdbmbY0
「うぉっほん。

 とにかく、その子は駄目だったんだよ。

 嫌いな物を食べた途端、全身がブツブツに腫れ上がって他界しちゃうから。」




「そっちの――」



「え、なに?

 いまなにか言おうとしたよね?

 なに急に口を閉じちゃったの?

 多分だけど、「そっちのほうがホラーだろ」なんて言おうとしなかった?

 ねぇ……聴いてた、僕の話?」



次、喋ったら全身にブツブツが出来るまで爪楊枝で突っつくからね。




「……でね、その子はクラスメイトの眼を盗んではロッカーに嫌いな物を捨て始めたんだよ。


 そんなこんなな日々が続いていって、ある日のことさ。

 その子は教室に遅くまで残ってて、気が付きゃ一人。

 辺りには誰もいなく、日は傾いて暗く、なんとぉ~も嫌ぁ~な雰囲気。」



 するってぇとどうしたことかい?



 トントントントンン……

 トントントントンン……



 聴こえるじゃあないか。

 あれぇ~おかしいなぁ~どうしたのかなぁ~……

 思ったわけよ。

 

 なぁ~んか教室の後ろのほうが煩いなぁ~って。

 気になっちゃったわけよ。 」



623 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/11(木)
01:11:42.79 ID:aPAdbmbY0
「ロッカー。

 普段は掃除用具が入っている場所。



 そこがどうにも怪しい。

 どう考えたって他に物音がして見えない場所はないんだから、

 そこしかないんだって確信してさ、でね、それで。



 トントントントン……



 鳴ってる場所へ向けて、



 コツコツコツコツ……



 歩いてったわけ。

 耳を当ててみると、やっぱりそのなかから音がしてる。

 こりゃ間違いない。

 今まで自分が嫌いな物の捨ててきたこの場所から、

 なにか物音がしてる……。



 その子ね、気付いちゃいなかったんだ。

 食べ物を与えてたうちにロッカーが味を覚えちゃってたことに。

 色んな物を食べるうち、もっと別の新しいものを食べたいなって、そうなってたことに。




 でもそんなことを知らなかったからさ、その子。

 ロッカーに両手を据えると―― 」

626 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/11(木)
01:22:40.70 ID:aPAdbmbY0
「わぁぁぁぁああああああああ!!」



うわっ、ロッカーからなんか出て来た。



「ぎゃぁぁあああああああああ!!」




タックルを受けた春原、絶叫。

思わず俺も一歩後ずさっちまった。

早くも春原は腰を抜かして床にヘタリ込んでしまっており……




その頭を叩く、叩く。



ロッカーの中から出て来た奴が、貝を割るラッコのように、

春原の金髪をコッツコッツ、コッツコッツ。


何か非常に硬い物を手にした両手で万遍なく、

そりゃもう春原の頭をかち割ればごちそうが出てくると云わんばかりにだ。




「食べられてしまいますっ、

 風子、自らロッカーのなかに誘い込まれてましたからっ!」



女生徒だった。


相変わらず読解不明な言葉を喚きながら、しかしその手は一向に休めない。

あ、もしかするとこのショックで春原の頭が良くなる可能性もあるな。


俺は少し、傍観していようか。



「助けて、どうかお助けを!

 キュウリを捨てた僕が悪かった、だから食べないでくれぇ~!」




お前、捨てたことがあるのかよ。



632 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/11(木)
01:33:46.18 ID:aPAdbmbY0
無限ループ。

放っておけば何時まで経っても終わらない拷問。

流石に俺も、春原が気の毒に思えてきていた。


先程、坂上に受けた首への一撃と重なって、致命傷へ至る可能性もあるからだ。

なので妙に小柄な女生徒の手に握られていた、謎の凶器を抜き取り、


そのあとで訊ねた。



「なにをやっているんだ?」



無反応。

というより、俺が視界に入っていないらしい。




「おい、もう凶器はないんだからその手はいい加減に止めないか?」



口で言っても駄目だろうと踏んだので、今度は両手を拘束し、


女生徒と目線の高さを合わせてから問い掛けた。

この目線を合わせるというのは、一ノ瀬の時に学ばされた技術だがな。




「モミアゲお化けですっ!」



なんだこいつは。

イヤイヤと両手を振りほどき、さらに背中に手を回したかと思うと――




目線を合わせるべく姿勢を低くしていた俺の頭上から、

新たに抜きだされた凶器第二号が振り下ろされていた。



639 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/11(木)
01:45:12.14 ID:aPAdbmbY0
火花が散った。



同時に、世界中の電灯が落とされたかのように視界が暗がりに落ち始め、


今まで感じられていた音や、自分自身の体感覚が、次第に遠いものへと変わっていった。



ゴツリゴツリと、容赦なく何度も襲い来る衝撃。


でもなんだかそれが心地良い。



これを払いのけるのが一般論であり常識だとしても、


自分がそれを望むのならば、それはそれで自身に措いては正論なのだ。

故にこのままでいい。



それになんだか体が重いし、


仮に抗おうとしたところで手足一本を動かすのすら億劫というもの。



いいじゃん、これで。

バイバイ、皆。




「ってキョン! しっかりしろよ!」



誰だい君は?

もう、僕のことは放っておいてくれよ。




「なんか一人称が変わっちゃってるんですけどー!」



642 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/11(木)
01:55:54.74 ID:aPAdbmbY0
数分後。



「アンタ、打たれ弱すぎでしょ?」



床に胡坐をかいて座る春原が、やや心配そうに言った。




「俺は造りが普通だからな。むしろ、お前の方が丈夫すぎんだよ」



俺も足を崩して床にヘタっている。


まったく、まだ頭がズキズキしやがるぜ。



「それで、お前はなんなんだ?」




春原が話を振ったのは、先ほどロッカーの中にいた小さな女生徒へ向けてである。


今は落ち着きを取り戻したようで、床に正座し、それによって反省の色を示しているようだ。



「最悪ですっ!」




全然違った、ちっとも反省してやがらねぇ。

こりゃあ人を凶器で殴る危険性について、長々と小言を垂れねばなるまい。



646 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/11(木)
02:11:01.33 ID:aPAdbmbY0
俺が十七年近くの間に溜め込んできた知識、経験、失敗、美談。

それらと共に感じてきた心境や、明日を生きる方法論。


さらには持論と一般論を御多分に混ぜ込み、展開させ、

最終的に自己PRを加えたことで、俺の話は終章を迎えた。




「すげぇ、すげぇよキョン……」



お前が感心してどうする。

肝心の女生徒はというと、




「何が言いたいのか全然わかりませんでしたが、取りあえずありがとうございました」



その容姿通りの子供染みた声で、


これまた生意気にもそっぽを向いてツンとした猫のような風体を以って、

心が微塵も篭っていない謝意を述べてくれやがった。

感心できんな、




「少しくらい反省したらどうだ。

 少なくとも、頭を下げるべきなのがどちらかという事くらい判断が付くだろう?」


「風子は、怖い話を聴かせてきた、こっちの変な頭が悪いと思います」



ピッ、と春原を指差してみせる。




「まあ、そいつが悪い奴であることは坂上の件で明白ではあるが、」

「うるさいよ!」


「ともかく、俺は一般人だ。ならどうするべきだと思うか?」



風子が悩む。

別に悩むほどのことじゃないと思うんだがな。




652 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/11(木)
02:25:59.96 ID:aPAdbmbY0
やがて女生徒は肩を竦め、

小さな体をより縮めてから俯き加減に囁いた。



「ごめんなさい」




口を尖らせての、聴きとるのにも苦労する弱々しさ。



「よし、許す」




俺は特にあれこれとは言わず、それを認めることにした。

こいつがどんな奴なのか知り得てはいないが、


謝罪するだけににこれだけの時間を要したことから察すれば、

これがこいつなりの精一杯であることは明白だ。


だったら、とやかく言うのも気の毒というもの。



それに体格的に、そして性格的に見ても、


中学に入りたてである俺の妹並に幼いので、強く責めるのも気が引ける。

俺は妹思いだって言っただろ?




ともかく、俺は女生徒の頭を撫でてみた。

そうしたほうが良いように思えたからだ。



「軽々しく触らないでください」




そして手厳しい反撃を受けた。



656 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/11(木)
02:41:24.39 ID:aPAdbmbY0
ようやく必要なことが済んだので、次の段階へと移ることにする。

いや、考えてもみればこれを初めに訊ねるべきだったのだろうが、


どうもこの学校では時間の枠に対してフリーダムな人間が俺を含めて多すぎたため、

一般常識からくる感覚が麻痺していたのかもしれない。




かくして、俺は訊ねた。



「どうしてお前は、授業中だというのにこんな場所に居るんだ?」

「それは風子のほうが訊きたいです。


 どうしてあなた達は、授業中だというのにここにいるんですか?」



質問を質問で返すなよ。

まあいい、先攻も後攻も変わるまいて。


と考え、俺は春原を指差してから答えた。



「俺はこいつに巻き込まれて、成るべくしてなっちまったんだよ」


「やっぱり、変な頭の人は悪い人です」

「そうだ、その認識は正しいぞ」



春原が割って入る。




「アンタら二人して僕に怨みでもあるんですかねぇ!?」

「俺はあるぞ。転入後三日目にして、晴れて二回目のサボりを果たしたんだからな」


「風子もあります。怖い話を聴かされました」



春原は悶絶し、それきり黙りこくった。



658 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/11(木)
03:01:52.64 ID:aPAdbmbY0
「それでもう一度訊くが、どうして授業中に?」



女生徒は瞳を右往左往させ、膝上に重ねた両手の指が落ち着かなく蠢き、


ありありと動揺の色を振り撒いたあとで一言。



「教室を間違えました」

「お前、その言い訳を考える為だけに数秒も時間を使ったのか?」


「酷い人です。風子のことを信用しないなんて、酷すぎます」

「おいおい、ここは旧校舎だぞ?


 どこの世界を探せば、自分の教室を探し間違えた末に、校舎ごと間違える奴がいるんだよ」

「ここに居ます」




女生徒が、今度は自分を指差した。

いや、それを認めれば言い訳は真となれど、代わりに多大な犠牲を払うことになると思うんだが。




660 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/11(木)
03:11:20.91 ID:aPAdbmbY0
しかし、それもこの際は放っておこう。



「で、なんだこれは?」



俺は女生徒が携えていた凶器、もとい星を拾い上げた。


形が星なだけでありその造りは木製で、所々が不格好で歪になっており、

表面には彫刻刀などで削り取った際に出来る独特の模様が走っている。


などと俺が観察に耽っていたところ、女生徒が俺の手から星を奪い取り、

同じくしてその表情が喜色満面に一転した。



「ヒトデですっ」




……はい?



「これは風子がヒトデへの溢れるような想いをこめて彫りました。


 ヒトデは良いものなんです、とってもとっても良い物でそれはもう……」



おい、お前大丈夫か?


おーい、笑顔のまま固まっちまってぞー?



「反応ないね」



春原が呟いたので俺は身を乗り出し、


開けっ放しとなっている女生徒の眼前で指を振ってみるも、

その瞳が一切つられることはなかった。




「こりゃ、遠い世界へ旅立っちまったようだな」



にしてもだ。結構怖いんだぞ、制止した笑顔って。


無駄にいい笑顔なだけに余計にな。



665 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/11(木)
03:22:18.33 ID:aPAdbmbY0
どうしたものかと思案したのだが、

これといって良い解決法も思い浮かばなかった為に、

俺達は最終手段を用いることとした。




「待とう」

「おう」



春原も同意すると立ち上がり、

「じゃあ、キョンに任せるよ」

と教室から出ていく。




「ちょっと待てよ、お前はどうする気だ?」

「いや、喉が乾いちゃったしさ、ジュースでもと思って」

「なんだ気が利くじゃないか」


「なんですか、その僕が奢らなきゃならないような空気は!」

「ジョークだから怒るなって。


 後でちゃんと払うから代わりに買ってきてくれ、見張りはやっておくから」



へーい、と残して春原が出ていったことで、


空き教室内には俺と、彫刻と化した女生徒の二人だけとなった。

やることもないので、なんとなくその表情を窺ってみる。




……この上なく満面な笑みが、そこに張り付いていた。



おい、冗談抜きに恐いぞ。


生きた人間が物音一つ起こさずに、笑顔で固まっているんだからな。

どこかの国の門番じゃああるまいし、冗談だとしたらそろそろ辞めて欲しい。




切実に願う。



671 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/11(木)
03:40:08.33 ID:aPAdbmbY0
「ただいまー。

 優しい僕は、その子の分も買ってきてやったぜ」



春原が戻ってきたというのに依然、進展なし。


にしてもなんだよこの紙パックジュースは。

どろり濃厚なんて、口にするには少しばかり躊躇しそうな文字が書いてあるではないか。




「まだ固まってんの、この子?

 いっそ、こいつで叩けば目を覚ますんじゃない?」




仕返しとばかりに春原が”ヒトデ”を持ち上げたので、

俺はストローを突き刺す動作を中断するほど慌て、その手を制止させた。




「そう慌てるなって。僕だって女の子相手に手はあげないさ」

「ほんの小一時間前、坂上に全力で向かっていったお前が何をいうか」


「勘違いしないでほしいな、あの時の僕は全力じゃなかったんだぞ。

 それにアレは女とは思えないくらい強いのは確かだし、


 女だと思って僕が油断さえしなければ……」



春原が何かに思い当たったらしい。

念仏のように、




「女じゃない、女じゃない、女じゃない……」



何度も繰り返し、ようやく終結点についたのか叫んだ。




「そうか、そうだったのか!」



謎が解けたらしいが、俺は面倒だったので訊ねないことにしておいた。


うん、意外といけるな、このジュース。



675 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/11(木)
04:00:53.41 ID:aPAdbmbY0
俺がジュースを飲み終えるほど時間が過ぎても、状況は全く以って好転せず。

また、春原が見せた珍しき施しによって用意された女生徒ぶんのジュースも、


外気温との差で汗をかき始めていた。



でだ。



魔が差した、というべきか。


ふと、俺はその女生徒用のジュースで何か出来ないか――いや、違うぜ。

その紙パックジュースの液体を、ストローを介して鼻の中へと注入し、


延いては鼻から口、口から喉、喉から胃へと流し込んでみたい、という衝動に襲われた。



テレビなどで目にしたことはあるが、


実際に鼻から飲料物を摂取できるのかと問われれば、それは怪しいものだ。

もしかすると、アレはテレビが創り上げた都市伝説なのかもしれないからな。


そうだ、そうかもしれない。

つまりは今ここで俺が女生徒とジュースを用いた実験を行うのは後学の為でもあり、


今後の発展に向けての偉大なる一歩ともなるはずである。



小さな一歩。

しかし偉大な一歩。



俺は、やるぜ?




676 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/11(木)
04:02:41.41 ID:aPAdbmbY0
「待てよキョン、それはその子の分だぞ?

 僕って結構怖がらせちまったみたいだし、これで水に流して貰おうって思ってんだからよ」


「まあまあ、考えてもみろよ。

 このままこいつが目覚めるまで待ってちゃ、折角のジュースが温くなっちまう。


 やっぱり美味いものは最高のコンディションで味わうべきだろ?」

「えっと、そりゃ言われてみればそうかもしれないな……」


「なら、鮮度が落ちる前にだ。要するにいますぐ飲ませてあげるのが道理ってもんだろう」

「なーるほど、お前って頭いいよな」




へへっ、春原程度を丸めこむのは余裕だぜ。



「ちょっと待てよキョン、なんで鼻からなんだ?」


「呼吸が停止したり重症な人間には、鼻からチューブを通して薬液なりを打つだろ?


 これはアレの応用でな、こいつの停止状態ではこうするしかないんだよ」

「やっぱ頭いいな、お前」



ちょろいもんだぜ。




679 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/11(木)
04:10:39.24 ID:aPAdbmbY0
セット完了。

深々と突き刺さったストローが、その時を待つ俺の期待で震えていた。

あとは、この紙パックを握るだけ。


ほんのちょっとだけでいい。

あと少し俺の右手に力を込めれば、それで結果へと導かれる。



高みへと登れる!




「覚悟はいいか、春原?」

「なんの覚悟だよ」

「よし、良いらしいな」

「僕、何も言ってないんすけど」




助手の了解も得て、GOサインも獲得。

さあいくぜ。



「喰らえっ!」



俺はひと思いに紙パックを握りしめた。




683 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/11(木)
04:25:46.82 ID:aPAdbmbY0
「あうっ!」



ああっ、こいつ動き出しやがった!

もう少しだったのに。



「なんですか、なんなんですか!?


 なんだか鼻がムズムズしてますっ!」



小振りに咳を一つ、女生徒は取り出したハンカチで入念に鼻周りを拭いていた。


俺はその様子を観察し、絶望感に打ち拉がられながらも一縷の想いを抱いて訊ねてみる。



「飲めたか?」

「……なんのことですか?」




くそっ、俺の負けだ!

俺は高みへとは登れなかったんだ。

結局は岸壁へと弾かれ、叩き落とされた若輩の一身。


所詮は凡人、その域を超えることはできなかったのだ。



「お前、喰らえとか言わなかったか?」



春原が不信感露わにしていた。




「気のせいだ」

「そうだったのか?

 なんかお前、時々人が変わったようになるから、見てて怖く思うことがあるんだけど」


「これからは気を付けておく。

 ほれ、春原からの差し入れだ。これで水に流してほしいとのことだ」




俺が女生徒にジュースを手渡すと、女生徒は眉を潜めつつも受け取ってくれたようだった。



685 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/11(木)
04:46:31.44 ID:aPAdbmbY0
さてと。

一通りのことを話し終わってはみたが、そういえばまだだったな。



「僕は春原陽平、こっちはキョンな」




お前、また勝手に人の仇名を広めやがって。

まあいい、今さらどうこう言う気力すらないさ。




「キョン……外国の方でしたかっ!」

「違うに決まってるだろ」

「変な名前です! 変な名前の人ですっ!」


「復唱しなくとも伝わっている。落ち着け」



すぐにヒートアップしてしまいそうな女生徒を宥め、

それから俺は相手の名前を求めた。


とはいえ、さっきから何度も口にしている一人称が恐らく、名前であろうがな。



「わかりました」




と、何故か気合いを入れるように両手をぎゅっと握ってみせ、


立ち上がってはほどよく離れた位置まで歩いていき、くるりとスカートを翻してピタリと向き直った。

それに連れ、毛量が多く長い髪が揺れ、


背中ほどで流れを一つに纏めた大きく特徴的なリボンが、ふわりと風に舞った。




女生徒は意外にも思えるほどに行儀良く、両手を前で重ねてからハキハキと述べた。




「伊吹、風子です。風の子と書いてフウコです。気軽に風子と呼んでくださいっ!」




ペコリと精一杯に思えるほに頭を下げ、髪が遊ぶほどの勢いで元に直ると、

やはり高校生には思えないほどに幼い顔で、しかし可愛らしく笑った。




692 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/11(木)
05:02:22.19 ID:aPAdbmbY0
風の子か。

言われてみりゃあ、正にイメージ通りだな。



「なんか、今の部分だけやけにしっかりしてたように思えたんだけど」




春原がぼやいた。俺も同感だ。

所謂、やればできるってタイプなのだろうか。

って、なんだかフーフー言っていようだが大丈夫か?




「緊張しました」

「どうしてだよ」



問いかけた春原に、風子が平らな胸を撫で下ろしながら返した。




「緊張するんだから緊張するんです。だから仕方がないんです」

「さっきまで僕達と普通に話したり、暴れたり、固まったりしてたくせに」


「風子、話もしましたし、多少なりともは暴れもしました。

 それは認めてさしあげましょう。ですけど、固まってはいません!」




変なところで意固地な奴だ。

なんにせよ名前を知っちまったもんは仕方がない。



「よろしくな、風子」

「……」




少しばかり迷うような仕草を見せた風子は、数瞬のあとに決心したようで。



「はい、よろしくです! 変な人達!」




大声で俺達を変人呼ばわりしてきやがった。



696 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/11(木)
05:28:15.30 ID:aPAdbmbY0
これでまた、『クセのある人物集』に記念すべき1ページが刻みこまれたのだ。

俺はちいとも嬉しくはないがな。


おっと、風子が何かを言わんと口を開いたぞ。



「風子、わかってしまいました。お二人ともは、なんだか爪弾き者っぽいです。


 そこはかとなく匂ってくる言葉の荒々しさが、

 その駄目っぽさに可憐な一連の華を添えているといった感じです」




意味がよく分からない表現技法を織り交ぜるな。

しかし春原は当然として、俺の言葉が荒々しいだと?




……言われて思い返してもみれば、確かにそうかもしれない。

岡崎、春原の両名と行動しているうちに、


多少なりとも口調や言動が移ってしまったという自覚が俺にもある。

そうだ、転入初日はもっとマトモだったはずだ。




いや、マトモってなんだよ。

それではまるで、今の俺が狂っているとでも言わんばかりじゃないか。




ともかくだ、もう少しくらいは控え目であったようには思える。


うーむ、いかん。なんだかんだで授業をサボっているし、トラブルは断続的に招くし、

そして今もこうやって呑気に話し込んでいたわけだ。




改めて自重し、自戒せねばなるまい。



「おっとと、そろそろ昼休みになりそうだね」


春原が背伸びするように床から立ち上がり、埃を払ってから続けた。

「んじゃまあ、ぼちぼち戻って昼飯とシケ込みましょうか」




そうだな、俺も特に異存は無いぞ。腹が減って鳴りそうだ。



12-11(Thu)17:33 |アンテナComment(0)Trackback(0) |*Edit*




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    Author:つぶあん
    大学3年。東方やめました。
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    新作に出番奪われ激萎え。
    あ、でもあれも面白いとは思うよ。一応。クソゲーではないんじゃね。
    BBとか軽く。主にカクゲー勢。研究とかそこそこ好き。

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